小学校から高等学校の理科学習において、学習指導要領に記載されているにも関わらず、地層の野外観察が十分には実施されていない現状がある。本研究は、香川県さぬき市にある雨滝山の露頭を対象として、理科教員が安心して児童・生徒を連れていくことができる地層の野外観察地を構築することを目的としたものである。ここで用いる安心とは、安全でしかも学習効果が高いことを意味する。以下に、安全と学習効果の2つの観点から、これまで実施してきた研究実績の概要をまとめる。 安全という観点では、2016年度~2017年度にかけて実施してきた露頭の保護対策法の検討を受け、2018年度には「土と石の強化保存剤(TOT)」の塗布を実施し、泥岩等の流出を防止しているところである。計画では2019年3月に最終塗布を実施する予定であったが、天候不順により延期とした。その理由は、TOTの効果を最大限に高めるには、露頭が十分に乾燥している必要があるからである。最終塗布は2019年5月に実施する予定である。 高い学習効果をめざすという観点では、これまでの2年間の基礎研究を基に、2018年度は本露頭の形成過程やその教材化、そして産出植物化石等に基づく古植生や古気温の分析を中心に論文化に取り組んだ。このうち、本露頭の形成過程やその教材化についてはすでに論文化を終えたが、産出植物化石等に基づく分析については、現在論文化を進行しているところである。また、本研究で明らかになった本露頭の形成過程や当時の古環境等を平易にまとめたガイドブック「ナマズ博士が追い求めた雨滝山の秘密」を作成し、地元の全小、中、高等学校等を中心に配布した。本研究の成果を広く周知することで、児童・生徒の地元の地層に対する興味・関心を高めるとともに、本露頭の学習価値を学校教員に認識してもらうことで、理科教員が主体的となった地層観察の実施につなぎたい。
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