研究課題/領域番号 |
16K00996
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研究機関 | 群馬県立ぐんま天文台 |
研究代表者 |
橋本 修 群馬県立ぐんま天文台, その他部局等, 研究員 (20221492)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 天体物理学 / 恒星物理 / 分光スペクトル / 公開天文台 / 観望用望遠鏡 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、主にぐんま天文台の150cm望遠鏡を用いて接眼分光器を活用した天体物理学の教育手法の研究を行った。独自に開発した接眼分光器は、天体の色とスペクトルを同時に見比べることのできる装置である。観望用接眼部を持つ大型望遠鏡に用いることによって、巨大な集光力を持つ大型望遠鏡の能力を最大限に発揮させ、直接触れることのできない遠方の天体の性質を客観的に計測・調査する天体観測の基礎原理を直感的かつ効率的に理解することを可能にしている。天体観察を通じた実践から、色を示す直接像の視野や拡大率、スペクトル像の大きさや波長分解能などについて、微調整を加えた方がより効果的な活用が可能であることが判明した。そのためには接眼分光器に若干の改良を加えることが必要であり、具体的な改良の検討を行った。これをもとに翌年度には実際の改造を実施する予定である。この改造は将来的に製作を検討している、より多くの望遠鏡で利用可能な汎用次世代装置の設計にも反映されるものである。 これまでの実践で、直接像では似たような赤い色に見えても化学組成の違いなどによりスペクトルの特性が全く異なる晩期型星や、鮮明な白色を示す一方で、水素のバルマー系列の吸収線が顕著ななA型星の観察が特に効果的であることがわかっている。年間を通じて季節を選ばずに実施できるよう、適切な天体の選定を行い、この種の観察プログラムを常に実行できるような体制を整えた。 また、接眼分光器を用いた観察を実施する際の教材として画像資料を作成する環境も整備した。 150cm望遠鏡に設置された低分散分光器GLOWSに改造を加え、基本的な観察対象となる様々な晩期型星やA型星のスペクトルのカラー画像に加え、より発展的な理解につながる、惑星や輝線星雲などの多種多様な単体のスペクトル画像を取得できるようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ぐんま天文台以外での接眼分光器の活用や、多様な望遠鏡でのこの種の教育プログラムの実践については量的にまだ不十分なところもあるが、国内外の観望用大型望遠鏡の多くで活用できるよう、様々な方面との間での意見の交換や各種調整はかなりの程度で推進できたと考えている。接眼分光器を用いた天体物理学の教育プログラムは、口径が1mを越えるような大型望遠鏡で特に有効となる。日本国内にはそのような規模で、観望に用いることのできる望遠鏡が20本近く存在する。それらを運用する多くの機関との議論を進め、接眼分光器を一定数製作して各地で利用するなどの、将来的な展望を検討している。 天文学や教育関連の学会や研究会などにおいても、本研究や接眼分光器についての報告を積極的に行い、それに基づく多様な議論を行うことができた。関連する査読論文も出版されている。国内に留まらず、より国際的な枠組でも、この種の教育手法の提案についての理解が得られたものと考えている。今日では、海外においても大型の観望用望遠鏡の建設や計画が少なからず進められており、観賞的な観望からさらに踏み込んだ本格的な科学としての天体物理学の理解への効果的な導入手段して、多くの方面から関心が寄せられている。なお、国際的な議論の場であっても、そこには日本国内の関係者も数多く含まれていることが今日では一般的であり、国内計画の議論や検討についても非常に有効であった。 年間を通じて教育プログラムを効率的に実施するための具体的な天体の選定や、接眼分光器の改造計画の策定、教材作成のための低分散分光器 GLOWSの整備などにより、本研究の目指す天体物理学の直感的な教育環境はかなり充実したものとなってきている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた経験をもとに、装置に対する具体的な改良案を策定している。分光光学系の波長分解能を上げ、様々な吸収線などをより明確に見分けることができるようにするとともに、適切な拡大率を採用してスペクトル全体の視認性を向上させることを計画している。計画最終年度にあたる2018年度にその改造を実施し、実際の観察に利用してその効果を確認する。改造にあたっては、ぐんま天文台150cm望遠鏡のみならず、各地の多様な望遠鏡においての利用も視野に入れ、その有効性を調査する。その結果をふまえ、新たな量産型の汎用接眼分光器を設計する。量産によるコストダウンも十分に考慮し、国内外のより多くの公開天文台で利用できるようなものを目指す。試作が可能な段階まで研究を進め、異なる望遠鏡であっても、一般的な観望用の光学系さえ装備されていれば、集光装置としての望遠鏡の基本性能を最大限に活用できるような教育用観測装置へと発展させる。 教育プログラムの実践に有効な印刷物や電子媒体での教材資料の作成についても引き続き作業を継続させる予定である。改良を加えた低分散分光器GLOWSなどを最大限に活用し、実際に見えるスペクトル像との直接的な対比が可能な視覚的分光データベースを構築する。また、分光データに含まれる詳細な物理情報の意味や、それを抽出する手段などについて解説した、より発展的な天体物理学の教材資料も作成したいと考えている。 なお、計画の最終年度となるため、これまでに得られた成果を論文や国内外の学会などで積極的に公表する予定である。接眼分光器を用いた教育プログラムを軸に、様々な公共天文台や大学の天文台などとの有機的な連携を深める方向性もさらに発展させるつもりである。
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