研究課題/領域番号 |
16K01005
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
岡田 努 福島大学, 総合教育研究センター, 教授 (50431648)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 放射線教育 / 福島 / 小中高 |
研究実績の概要 |
東京電力福島原発事故後,福島県内の学校現場での放射線教育の取り組みについては誤解が多い。福島県では教育行政主導による放射線教育指導資料が作成されたが,実際に実践できている教員は小中学校では極めて少ない上に,高校ではほぼ皆無である。教員を目指す大学生に対するフォローもなされていないのが現状である。これら福島の現状をふまえて,各学校における課題と学校種間の接続の問題を抽出し,小学校から大学に至る,放射線教育シラバスを提案し,全国に発信することが主な目的である。その過程で,地域の教育資源を活用した分野横断的総合的なプログラムの作成や,教員養成段階におけるこれからの放射線教育の課題を提示し,被災地福島県の学校教育に資する。 この目標達成のために今年度は学校現場で放射線教育に取り組む協力者を福島県内外に求めた。具体的には,福島県内の小学校5学年,中学校(1~3学年),県立高校(1学年),京都教育大学附属京都小中学校(7学年)である。ここでは実際に研究代表者が講師を勤め,あるいは所属教員が授業を実施する上での指導助言者として実践的な研究に取り組んだ。さらに放射線教育の取り組みを視察したり,福島市教委,須賀川市教委では指導研修会の講師・指導助言者として,実際に児童・生徒と関わる教員とも交流をもち,諸課題の抽出を試みた。加えて,教育委員会の放射線教育担当指導主事からも,研修実施に関する課題等をヒアリングした。また福島大学の教員免許志望学生を対象とした授業の実施,アンケート調査等も実施した。 以上の通り,今年度は実施困難と思われた小学校・中学校・高校・大学での放射線教育の取り組みについて協力者を得ることができ,教員や教育委員会等の課題も見えてきた。本研究にとって非常に重要な実践に関われたことはきわめて意義あることと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究計画として,次の6項目をあげている。(1)福島県の小中学校・高校の放射線教育の実態調査・課題の抽出(2)市販の放射線教育関連教材の収集と分析(3)従来の放射線教育プログラムの再構成~外部講師・霧箱実験から地域の実情にあった内容へ(4)福島大学内の放射線に関する授業等の実施状況の調査(5)協力校・教員・協力施設等との研修会等の実施(6)科学教育・理科教育学会および教師教育学会での研究成果の発表と全国の研究者との意見交換。 「研究実績の概要」にも記載したとおり,すべての項目に着手することができた。特に県外の協力者や中学生の授業に関われたことは福島県内外の比較をする上で貴重な実践となった。学校教育機関向けの指導資料はすでに文部科学省編,福島県教育委員会編,そして一部市教育委員会編の冊子が充実しているが,なかなか現場の教員は熟読して授業実施に結びつけることが困難であることが分かってきた。そこで今年度,放射線教育の授業内容をテキストがきわめて少ない画像中心の「フォトブック」として作成したところ,理科以外の教員に好評であった。予定にはなかったが一つのアイデアとして今後発展させたい。 他にも東京電力(株)の協力を得て,教材開発や福島第一原発視察体験プログラムを県内に普及できたことも大きな成果と言える。 またJST主催のサイエンスアゴラ2016に高校生・大学生・大学院生,福島県内の研究機関スタッフらと本研究に係る発表ブースを出展した(JST賞受賞)。さらに国立科学博物館で開催された国際シンポジウムにおいても本研究成果をポスター発表し,国内外に向けて成果を発表することができた。 以上が進捗状況に関する自己評価の主な理由である。
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今後の研究の推進方策 |
今後の取り組みであるが,まずは平成28年度と同様に「放射線教育」実践校や研修に熱心に取り組んでいる自治体等を数多く発掘したい。いわゆる震災や原発事故の「風化」が叫ばれる一方で,より高度な「放射線教育」プログラムの作成と実施が県教委や一部先進校で進められている。また震災直後と6年経過した現在とはその内容にも変化が見られる。そうした微妙な変化を小中高校大学へと進学した児童生徒学生からのアンケートやヒアリング調査から明らかにしていきたい。また震災直後も現在も変わらない普遍的な内容と時間の経過とともに変化する内容なども抽出したい。 そのためにも各学校から,本研究への協力者をより多く集める必要がある。研究代表者のこれまでの調査等から,「理科が苦手な教員」は,「得意な教員」とのコミュニケーションを苦痛に感じる傾向がある。そうした点にも留意し,小中高の教員と放射線教育を巡る懇談の場を設定したい。小教研・中教研・高教研,教育委員会主催の研修会とは異なる形態で「放射線教育に苦手意識をもつ教員」同士の交流を深め,理科並びに他の教科にまたがる視点と,小中高校から大学へと学校種にまたがる内容について議論を深めたい。
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