研究課題/領域番号 |
16K01012
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
王賀 理恵 山梨大学, 医学部, 助手 (00160432)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ゲノム編集技術 / 発生工学技術 / 遺伝子破壊 / 遺伝子挿入 / 科学実験法 |
研究実績の概要 |
2003年にヒトゲノムプロジェクトが完了し、ヒトのゲノムは約32億塩基対から構成されていることが明らかにされた。そのゲノム情報を見てみると遺伝子をコードする領域はゲノム全体の1.5%程であり、遺伝子以外のゲノムの機能は十分に理解されていない状況である。これまで、ある特定のゲノム配列を切断することは極めて難しかったが、ゲノム編集技術であるCRISPR (clustered regularly interspaced short palindromic repeats)/Cas9の登場により、様々な生物種において簡便に標的ゲノム部位におけるゲノム改変を行うことができるようになってきている。 本研究では、モデル脊椎動物として注目されているゼブラフィッシュを用いCRISPR/Cas9によるゲノム改変の最適化を検討する。これまでguide-RNA (gRNA)とCas9ヌクレアーゼmRNAを調整する煩雑な操作を行いゼブラフィッシュ受精卵に注入する必要があったが、本研究では、化学合成したCRISPR RNA (crRNA)とtrans-activating crRNA (tracrRNA)とCas9タンパク質を受精卵に注入する手法の最適化を行い、誰もが標的ゲノム部位にDNA二重鎖切断を誘導できる手法を確立する。さらに、ヒートショックタンパク質(hsp)プロモーターに緑色蛍光タンパク質遺伝子(GFP)を接続したドナーベクターを標的ゲノム領域に挿入する新しい発生工学技術を開発する。最終的には、医学部や理学部の生物学実習において、ゲノム編集技術を用いゲノムの働きや機能を体験できる科学実験法を確立する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
所属研究室は、gRNAとCas9 mRNAをゼブラフィッシュ受精卵に注入することで標的ゲノム部位に挿入・欠失変異が生じ遺伝子破壊を誘導できることを発表した。本研究では、従来のgRNAを化学合成したcrRNAとtracrRNAに変更し、Cas9 mRNAの代わりにCas9タンパク質に変更することで、より簡便なゲノム編集技術の確立を目指している。 標的遺伝子としてスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)輸送体spns2、メラニン合成に関与するチロシネースを選択した。spns2遺伝子の遺伝子破壊は心臓発生異常を示し二股心臓の表現型を示し、チロシネース(tyrosinase: tyr)の遺伝子破壊は網膜上皮細胞の色素異常を示すことが知られている。両標的遺伝子に対するspns2-crRNAとtyr-crRNAを化学合成し、tracrRNAとCas9タンパク質をゼブラフィッシュ受精卵に注入すると50%を超える確率で二股心臓や色素合成異常の表現型が誘導されることが明らかとなった。また、crRNA, tracrRNAとCas9タンパク質のいずれも-80℃保存により数ヶ月の長期保存と複数回の凍結融解によりゲノム編集活性が顕著に阻害されないことが明らかとなった。 化学合成したcrRNAとtracrRNAがCas9タンパク質と一緒に複合体を形成し、効率良くゲノム編集を誘導しうると考えられたので、未解析遺伝子であるepdr1 (ependymin related 1)に対するepdr1-crRNAをtracrRNAとCas9タンパク質と一緒にゼブラフィッシュ受精卵に注入した。その結果、効率良くepdr1遺伝子座に挿入・欠失変異を導入できることからcrRNA-tracrRNA-Cas9タンパク質を用いた解析法が確立できたと考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
化学合成したcrRNAとtracrRNAをCas9タンパク質と一緒にゼブラフィッシュ受精卵に注入することで高い効率で標的ゲノム部位が切断できることが明らかになったので、この手法を外来遺伝子のノックインに利用する。ドナーベクター内にcrRNAの結合部位を挿入し、その3’側にヒートショックタンパク質(hsp)のプロモーター領域と緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を接続する。標的遺伝子として中脳後脳境界部に発現しているpax2a遺伝子とfgf8遺伝子を選択した。crRNA、tracrRNAとCas9タンパク質をドナーベクターと一緒にゼブラフィッシュ受精卵に注入する。ドナーベクターが標的ゲノム部位に挿入された場合、GFPが中脳後脳境界部に発現するか否かで評価することができる。次に、ゲノム編集を誘導したF0胚を成魚まで飼育し、野生型と交配し得られたF1胚の中脳後脳境界部にGFPが発現するか否かで生殖系列移行が行われたかを判断する。 所属研究室は、これまでにゲノム編集活性を評価する手法として、挿入・欠失変異を検出できるヘテロ二本鎖移動度分析(heteroduplex mobility assay: HMA)を確立している。本研究でゼブラフィッシュ受精卵において効率良くゲノム編集活性を誘導できるシステムが確立できたので、ゲノム編集胚を用いてゲノム改変を観察できる生物学実験を構築し、医学部の生物学実習において導入する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
ゼブラフィッシュの飼育を担当する研究補助員のための人件費を平成29年度も継続して申請しているが、現在、研究を遂行する過程でゼブラフィッシュの飼育数などが増加しており、平成29年度に必要な人件費の増加が考えられた。
|
次年度使用額の使用計画 |
平成28年度に使用せず繰越した予算を上記の研究補助員の雇用に必要な人件費として利用する。
|