研究課題/領域番号 |
16K01015
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
村田 隆紀 京都教育大学, 名誉教授 (10027675)
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研究分担者 |
谷口 和成 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (90319377)
笠 潤平 香川大学, 教育学部, 教授 (80452663)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生徒・学生実験 / アクティブ・ラーニング / 公開講座 / 相互作用型授業 / 物理教育研究 |
研究実績の概要 |
本研究は,生徒・学生の概念的理解を促し,知識の活用力を育むために,アクティブ・ラーニングを実現する物理実験を中心とした総合的な物理教育プログラムの開発を行う。 1年目となる平成28年度は,高校・大学の物理教員で構成する既存の研究会を再組織化し,おもに国内外の生徒・学生実験を中心としたアクティブ・ラーニング(AL)型の物理授業の動向について調査研究を行った。その結果,米国物理教育研究において開発された「Open Source Tutorials(OSTs)」と呼ばれる学生実験を中心とした演習型のAL型授業に注目し,日本の大学生を対象とした授業実践を中心に,その学習効果の検証および授業運営のあり方について検討した。 授業のテーマは,典型的な誤概念が明らかにされている電気回路分野とし,実施にあたっては,国内でOSTsの第一人者である東京学芸大学の植松氏らのグループを講師およびTAとして招聘し,それに研究会のメンバーもTAとして参加した。また,授業は物理教育関係者に対して公開し,事後に検討会を開催した。 授業前後の概念テストの結果,OSTsは「演示実験を中心とした講義型のAL型授業(ILDs)」と同等の高い効果があることが明らかになった。特に,学習者アンケートの結果,「学習者自身が手を動かして自分の予想を確認できる」というOSTsの特徴が高く評価され,それが概念獲得に寄与していることを示唆する結果を得た。一方で,各学生班の予想や考察結果を全体討論により共有し,メタ認知を促す活動を教員主導で組み込む(ILDs型の部分的導入の)必要性も明らかになった。 この結果をふまえて,次年度に開催するボランティアの高校生を対象とした「(仮称)AL型実験授業公開講座」の授業形式を確定し,対象とする単元の選別を行った。その結果,力学,波動,電気分野における生徒実験プランを開発することにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目となる本年度の計画では,高校物理における生徒実験の実態調査とそれに基づくAL型実験授業プランの開発がおもな目的であった。そこで,本研究を遂行するために高校・大学の物理教員10数名からなる研究会(毎月1回開催程度)を組織し,日本の高校物理教育における生徒実験の課題を見出した。さらに,AL型授業における生徒実験のあり方を検討するために,その先進国である米国物理教育研究の成果を参考にした実践的研究を行い,日本において生徒実験を中心としたAL型物理授業を実現するための留意点を見出すことに成功している。 年間計画では,以上の結果に基づき,次年度に開催するボランティアの高校生を対象とした公開講座で実施する授業プランを開発する予定であったが,本年度,明らかにした留意点に従って単元を設定することに時間がかかってしまい,具体的な指導案を確定するには至っていない。しかしながら,設定した単元におけるアクティブ・ラーニングに必要なはたらきかけについての検討は,ほぼ終わっているため,公開講座の開催に支障はない。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に基づき,アクティブ・ラーニング(AL)型の実験授業の高校物理における単元学習への導入にむけた授業研究を,次の4つの事項を中心に研究を推進する予定である。 (1)研究協力者(高校教員)の勤務高校を中心に40名程度の高校生を募り,公開講座を開催する。特に,これまでに明らかにした同授業における展開のポイントを研究会で共有し,研究協力者が分担して授業を運営する。なお,授業評価のために,各班の活動の様子や教員の動きをデジタル機器で詳細に記録する。また,授業の前後で,受講者の物理概念や学習観の変容を調べる質問紙調査を行う。さらに,全国の物理教育関係者を中心とした授業見学者を広く募る。 (2)公開講座の成果について,ALの視点で詳細に検討を行う。講座後に見学者を交えた反省会を行い,記録したビデオ等を分析し,教師のはたらきかけやそれに対する生徒の反応,討論の様子等を分析し,定性的に評価する。また,授業前後の概念調査や学習に対する態度の変化を分析し,定量的に評価する。その結果については,必要に応じて,ミニシンポジウムを開催し,外部の公開講座見学者をはじめ,大学,高校の物理教育関係者に参加を呼びかけ,可能な限り客観的,批判的な意見を集める。 (3)以上の成果をふまえて,教材や展開等の修正を行い,研究会所属の教員が自らの勤務校にて授業実践を行う。実践結果については,随時,研究会で報告し合い,よりよいAL型実験授業の指導案および教材についての情報を共有する。また,可能な限り,公開講座で扱っていないその他の分野(単元)についても同様に,AL型実験授業を開発し,高校物理のすべての単元学習にAL型実験授業を位置づけることを目指す。 (4)年度の終盤には,次年度に行う「(仮)アクティブ・ラーニング型実験授業研修講座」の内容について検討を始める。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費における電子黒板の金額が予算より低かったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度,開催する公開講座の準備のための予算として使用する予定である。
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