2018年度は,(1) 日本の大学における情報教育に関する調査結果の分析,(2) 海外の大学における情報専門教育に関する調査結果の分析,(3) ISO/IEC 24773-1の策定,(4) イノベーション組織の中心人物に対するインタビューおよび文献調査等を行った. これらの活動を通じて,本研究が目的とする,(1) イノベーション人材に求められる能力,(2) イノベーションを促進する組織が満たすべき要件,(3) イノベーションを促進するためにマネジメント層に求められる能力の整理と検証を行った. ISO/IEC 24773-1(ソフトウェア技術者を対象とする資格制度に対する要求事項)の策定を通じて,人材の能力が知識,スキルおよび業務遂行能力(タスクを遂行する能力)によって定義されることが明確になった.イノベーション創出プロセスの分析を通じて,問題発見,共感,問題分析,解決策のデザイン,実現,評価といったタスクを抽出し,各タスクを遂行するために必要な知識およびスキルを抽出した. イノベーションを生み出す生産性の高いチームでは,多様な人材が所属して様々な観点からの意見を収集できるだけでなく,心理的な安心感が高い.また,チームの幸福度は,生産性や創造性を高める.People CMM等を活用して,こうした環境を作り出すことで,人材のマインドセットをポジティブなものにし,イノベーション創出に不可欠な試行錯誤(失敗の繰り返し)を受容する必要がある. イノベーション組織を作る上では,マネジメント層の能力が重要である.日本の組織(企業や大学等)は,米国等の企業と比較してマネジメント層の能力が低い.具体的には,リーダーシップ(正しい目標を定め,その意義を周知・説得する能力)とマネジメント(目標を計画として具体化し,それを推進する能力)を明確に区別した上で,両者を系統的に学ぶ必要がある.
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