研究課題/領域番号 |
16K01027
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
佐藤 裕司 兵庫県立大学, 自然・環境科学研究所, 教授 (80254457)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生物多様性 / 環境教育 / 環境学習 / 自然史 / 科学リテラシー |
研究実績の概要 |
本研究は、子どもたちに「生物多様性」の理解を促すための環境学習プログラムの開発と、そのプログラムの有効性を明らかにすることを目的とする。本研究では、過去から現在に至る生命の「縦」のつながりを知る素材として、恐竜化石を活用する。一方、身近な生態系の中での生物間および人の営みとの「横」のつながりを理解するために、ジャコウアゲハを素材の一つとして用いる。これらの素材を用いて「生命のつながり」を学ぶプログラムを開発・実践し、長い歴史の結果として現在の自然が存在することを直観できる「自然史リテラシー」を育む。 本年度は、生物多様性の理解度に関する調査と、学習素材となるジャコウアゲハと外来種のホソオチョウ、および両者の食草であるウマノスズクサの分布・個体群動態に関する調査を行った。これと並行して、環境学習プログラムの開発とその授業実践を試行した。 環境学習プログラムの開発に先立ち、兵庫県下の小学校教員を対象に生物多様性の理解度についてアンケート調査を実施した。その結果、生物多様性の授業の重要性や必要性は認識しているものの、実際に授業を行うのは難しいと考えている教員が多い実態が明らかになった。 現在の生態系の中での生物間、および人の営みとのつながりを理解する素材としてジャコウアゲハを用い、生物多様性保全の重要性を理解するための学習プログラムを作成した。そして、そのプログラムによる授業を兵庫県下の小学校2校で実践した。教育効果をみるために、授業前と授業後における児童の意識の変容を調査した。また、小中高等学校の教職員を対象に、開発した学習プログラムと授業実践の結果を紹介し、アンケートによりその内容について評価を得た。これらの調査から、ジャコウアゲハを用いた学習プログラムは生物多様性の理解を促すのに有効であることが示された。 以上の研究結果を日本環境教育学会において発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は生物多様性をテーマに自然史リテラシー涵養のための環境教育モデルの構築をめざすものである。そのモデル構築のための計画および方法は、次の(1)~(4)で構成される。すなわち、(1)生物多様性の理解度に関する調査、(2)教材化のための基礎調査と実験、(3)学習プログラムのデザインと実践、(4)学習プログラムの有効性の検証である。 本年度は、まず小学校教員を対象とした生物多様性の理解度に関するアンケート調査を実施し、その理解の現状を明らかにした。このことにより、調査の第1段階は達成した。ジャコウアゲハの教材化のために、兵庫県およびその周辺地域を対象に、食草ウマノスズクサとの関係、食草をめぐる外来種ホソオチョウとの競合問題について調査した。ジャコウアゲハは兵庫県下でも比較的広く分布しているため、教材として有用であることが明らかになった。また、ホソオチョウとの競合については、淀川(大阪市淀川区)において調査を実施し、現在も継続中である。 ジャコウアゲハを用いて、現在の生態系の中での生物間、および人の営みとのつながりを理解する学習プログラムを開発し、生物多様性について学ぶ小学生向けの環境学習プログラムをデザインし、そのプログラムを小学校2校で授業実践した。プログラムの効果をみるため、授業の前後に児童からアンケートによる評価を得た。また、教職員向けにセミナーを開催し、小学校での授業実践の内容を紹介し、プログラムの有効性を検証した。以上により、研究は当初の計画どおりに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
ジャコウアゲハを用いて現在の生態系の中での生物間、および人の営みとのつながりを理解するプログラムは、本年度におおむね完成し、児童と教職員からプログラムに対する高い評価が得られた。このことから、本プログラムの内容とその有効性に関する論文の作成に着手する。また、教育現場でより容易にジャコウアゲハを飼育が可能になるよう、人工飼料の改良などに取り組むとともに、教職員向けの教材として冊子の作成を進める。ジャコウアゲハと外来種ホソオチョウとの競合問題については、淀川(大阪市淀川区)において調査を継続する。平成28年の夏以降にホソオチョウが見られなくなったことから、本種の個体数の動向に着目して調査を進める。 本研究では、生命の「縦」(時系列)のつながりを理解するためのツールとして、恐竜化石を活用する。本年度に開発したプログラムに時系列のつながりの理解を促す内容を付加し、プログラムの展開を図る。その一方で、ジャコウアゲハ以外の新たな学習素材として、淡水魚のアユを用いた生物多様性の学習プログラム開発にも取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度の研究において外注費が生じる可能性があったため、「その他」の経費を計上した。しかし、研究協力者との協働により解決したために予算は使用しなかった。また、「人件費・謝金」についても、調査協力以外に資料整理や学会等での発表用ポスター製作の補助を想定していたが、自助努力により当初予定していたほど使用しなかった。これらの理由により繰越金が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成28年度の繰越金を活用し、新たな学習プログラム開発を試行する。プログラムの新規開発では、学習素材としてアユを検討材料とする。兵庫県の猪名川流域では、海産遡上アユ、人工のダム湖産アユ、そして放流アユの3タイプが生息する。この3タイプのアユを用いて、生物多様性保全(とくに国内外来種問題)を学習するプログラム構築の可能性を探る。 このほか、今後の推進方策で記した実施内容にしたがい、研究費を使用する計画である。すなわち、外来種ホソオチョウとの競合問題については、淀川(大阪市淀川区)において調査を継続する。この調査には研究協力者を必要とするため、旅費のほかに謝金を使用する。旅費は学会等の参加費としても使用する。また、今年度から教職員向けの冊子作成に着手する。冊子のデザイン等についてアドバイスを得るため、その経費を謝金に含める。物品費は研究の推進に必要な消耗品類の購入に使用する予定である。
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