ニュートン力学概念の理解度と図の描画の相関に関する調査の信頼性向上については,調査対象者に図を描画させる方法および図の内容と,調査対象者が描画した図の評価方法について,引き続き検討を行った.具体的には,調査対象者に描画させた図と力学概念調査の結果との相関を取るための,図の複雑さの指標としての点数化について検討した. また,視線追跡装置(トビー社製 X2 アイトラッカー)によって,教科書などに掲載されている図を学習者がどのように見て,どのように解釈しているかを明らかにするための調査のために,調査対象者に対して提示する図のわかりやすさの指標として,フラクタル次元による指標が適応可能であることを明らかにした.これにより,図の描画によってニュートン力学概念の理解度を評価する方法の確立については目処が立ったが.多人数に対する調査については実現することができなかった.しかし,ここで得られたフラクタル次元による図のわかりやすさの指標は,物理教育で用いられている図について,客観的な指標による評価を可能とする可能性がある.物理教育の現場では,状況の説明やベクトルの図示のためなどに図や絵といった視覚的な表現が用いられるが,視覚的な表現は多義的な解釈が可能なため,教授者の意図通りに学習者に解釈されるとは限らない,この解釈の不一致によって生じる学習者の混乱が,物理の学習を難しくしている一因となっている可能性がある,フラクタル次元による図のわかりやすさの指標を用いることで,このような困難に対する改善へのひとつの評価軸を与えることができると思われる.
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