本研究では,山地崩壊の様式について気候と地質がもたらす違いを野外で調査してきたが,本年度は①2018年胆振東部地震で厚真町を中心に数百もの表層崩壊が同時発生した事例と,②最終氷期に形成された周氷河地形が後氷期の侵食によって崩壊している宗谷丘陵の事例を調査した。また,最終年度として③山地崩壊や土石流の作用を導入した地形学習の方法を開発し,理科の教職課程を目指す学生に実践させてその効果を検証した. ①:北海道厚真町地域周辺は地質として堆積岩地帯であり,その硬い岩質と低い山地からは山地崩壊の素因は乏しく,日本の観測史上最多の斜面崩壊が同時発生するとは全く考えられていなかった.現地調査で基盤堆積岩の上に薄く重なる樽前火山由来のTa-d軽石層の基底が滑り面となって崩壊した様子が確認された。このことから,本研究では地質として一般の地質図を参照することを想定していたが,新しい時代の火山活動による降下堆積物の分布する地域では,表層地質図等も併用する必要性が明らかとなった. ②:宗谷丘陵は氷河時代に地表面の全面が凍結風化してなだらかな周氷河地形が形成されているが,現地調査でその僅かな凹地に,現在の気候下で融雪流水による深いV字谷が形成され,両岸で斜面崩壊が著しく発達することがわかった.このことから,本研究では現在の気候を基準に考えることを想定していたが,寒冷地域や高山では氷期の風化等の作用で形成された地形や風化物を素因として十分検討し,その上で現在の気候下での作用を適用する必要があることがわかった. ③:地域の地形を適切に教材化するには,教員が地域の地質学的な成り立ちを理解することが基礎になることが判明したので,webを活用したシームレス地質図や1/5万地質図を用いた教員のための地質理解法を開発し,さらに川原の石を素材として始める実習を行い,それらの結果から十分な効果が得られることを確認した.
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