研究課題/領域番号 |
16K01053
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研究機関 | 神奈川県立生命の星・地球博物館 |
研究代表者 |
山下 浩之 神奈川県立生命の星・地球博物館, 学芸部, 主任学芸員 (60261195)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地学教育 / 岩石プレパラート |
研究実績の概要 |
岩石プレパラートを作製して偏光顕微鏡を用いて観察することで岩石を科学的に理解し、固体地球を理解するためのプログラム作成を目指している。昨年度は、1安価で簡単な岩石プレパラート作成方法の開発、2偏光顕微鏡を用いない岩石プレパラート観察、3岩石プレパラート観察講座の実践を行った。 岩石を偏光顕微鏡で観察するために必要な岩石プレパラートを作成するためには、専用の備品や作業に熟練を要する。今回は身近にある安価な材料で岩石プレパラートを作成する方法を模索した。具体的には、身近にあるハンマーで岩を割る、石片を紙やすりで研磨、石片とスライドガラスを市販のボンドで接着、紙やすりで研磨して仕上げるといった非常にシンプルな作業プログラムを考えた。昨年度はこのプログラムを実践することで問題点の抽出を行った。 岩石プレパラートを観察するために必要な偏光顕微鏡は、生物顕微鏡に比べ非常に高価であるため、公立の中・高等学校にはあまり設置されていない。そのため仮に岩石プレパラートが完成したとしても観察の手段がない。昨年度は偏光板とスキャナーによる観察、超接写可能なデジカメによる観察、紙コップと偏光板を組み合わせた観察道具の作成など様々な試行を行い、状況に応じた観察方法を模索した。 岩石プレパラート観察講座の実践については、教員向けと一般市民(中学生以上)向けの講座を2回開催した。この講座は「偏光顕微鏡による岩石の観察」→「岩石の仕組みを理解」→「地球を構成する岩石を理解」といった流れのもの。3回あわせて40名程度に実施した講座であったが、アンケートの結果からは、ほぼ全員から偏光顕微鏡を用いたことで岩石の仕組みがよく理解できたとの反応があった。 岩石プレパラート作成と岩石プレパラート観察講座の実践については、他の博物館での実施状況を把握するために、千葉県立中央博物館への視察と聞き取り調査を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「安価で簡単な岩石プレパラート作成方法の開発」については、プログラムをつくり、1度の実践を行った。この実践では、岩石プレパラートが作れたが、参加者全員が完成するにはいたらなかった。その原因をふまえて再度プログラムの試行が必要である。 および「偏光顕微鏡を用いない岩石プレパラート観察」については、いくつかの方法が模索できたが、まだ実践に至っていないので、授業や講座で本当に使えるかどうかの検証が必要となる。岩石プレパラート観察講座については、計3回の講座を実施して手ごたえがあったが、更なる講座の実施と、学校での授業を行う必要がある。また、安価で簡単な岩石プレパラート作成から、偏光顕微鏡を用いない岩石プレパラート観察、岩石プレパラート観察講座まで一貫した講座を実施する必要がある。 昨年度は、岩石プレパラートを作成するにあたり、身近にある箱根火山の溶岩(安山岩)を使用した。これは1つのモデルケースとして良いのだが、地球を構成する岩石の基礎であり、中学校の教科書にもでてくる、花崗岩や玄武岩などの基本的な岩石で岩石プレパラートを作成して講座を実践する必要がある。そのための資料採集ができていない点が昨年度の積み残しとなった(いわゆる典型的な花崗岩は神奈川県に産出しないため、県外に採集に出かける必要がある)。 以上の点をふまえると、現時点では完璧とは言えず、やや遅れ気味であると解釈される。
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今後の研究の推進方策 |
岩石プレパラートの作成については、治具の開発などを行うことで、より短時間で楽に作成する方法を取り入れて実践を行う予定でいる。これについては数多くの実践講座を行う必要がある。今年度は、教員向け講座、子ども向け講座、地学愛好家向け講座の3回を用意している。会場も当館だけでなく、箱根ジオミュージアム(研究協力者:山口)や箱根ビジターセンターなどでの開催も予定している。 「地球を構成する岩石」の視点から展開する岩石プレパラート観察講座は、当館での講座の実施とあわせて私立武蔵中学校(研究協力者:川手)でも開催する予定である。公立の中・高等学校の理科の授業で岩石プレパラートの観察を取り入れるにあたっては、当初予定していた中学校教員(研究協力者:谷)が、昨年および本年とも3年次の担当となり、授業を行うことができなかった(岩石は中学1年のカリキュラム)。対応策として、箱根ジオパーク内の公立中学校での出前授業や、県立高校での授業(こちらはプログラムの提供)を予定している。 岩石プレパラートの作成から偏光顕微鏡を用いない岩石プレパラート観察、岩石プレパラート観察講座まで一貫した講座を行う必要があるが、今年度は教員向け講座にて2日間でこの内容を展開する計画でいる。 岩石(花崗岩)の収集については、早い段階で鹿児島県東部に分布する、ざくろ石やカリ長石を含むSタイプの花崗岩を採集する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、特別展示や企画展示などの所属でのイレギュラーな業務が、1年を通して集中したために、十分な研究時間を割くことができなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
今年度は、早期に岩石資料の収集を行うこと、夏休み後にアルバイトを確保して、プログラムの実践や講座の補助などで計画的に助成金を活用したい。
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