本研究では,聴覚障害学生向け実技演習における教示支援手法について,触覚を用いた支援手法に着目した.従来,視覚情報中心であった情報保障に触覚情報を加えることで,実技演習における聴覚障害学生の授業内容理解度を向上させることができるのではないかと考えた. 平成28~29年度は,聴覚障害学生を対象としたコンピュータ操作教示時に用いる触覚フィードバックデバイスの開発と検証を行った.教員のマウス操作を,触覚情報によって伝達するため,マウス操作を行う指に装着する小型軽量の振動デバイスと制御プログラムを開発した.システム開発後,筑波技術大学産業技術学部総合デザイン学科に所属する聴覚障害学生の協力を得て評価実験を行った.評価実験では,従来の視覚を中心とした情報保障と,これら触覚提示デバイスを用いた場合とを比較検証した.質問紙調査及び視線計測を含む定量的な調査によって,視覚を中心とした従来の情報保障手段に対する触覚情報の有効性や問題点を示すことができた.これらの研究により,実技演習への触覚情報の活用については,気付きの誘発や重要な箇所への注視誘導効果などの有効性があることが分かった.一方で正確な情報の伝達には問題があり,情報が誤って認識されることも分かった. そこで,これらの研究から得られた知見を応用し,視覚情報による伝達方法を中心としていた従来の情報保障手段に加え,触覚情報による気付きの誘発や注視誘導効果と同等の効果もたらす機能を追加し,教示支援ソフトウェアを再開発した.最終年度に開発したソフトウェアは本研究の当初計画を超えた開発であるため,有効性の検証は今後の課題であるが,既に実用可能なソフトウェアとして完成しており,申請者の担当する実技演習において活用を始めている.
|