研究課題/領域番号 |
16K01061
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研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
岡本 満喜子 長岡技術科学大学, 技術経営研究科, 准教授 (20610778)
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研究分担者 |
中平 勝子 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (80339621)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 集団討議 / 安全教育 |
研究実績の概要 |
まず、受講者の事前学習を行う上で適切な事故映像の提示方法を明らかにするため、映像提示方法の差異が運転者の発話内容に与える影響を明らかにすることを目的として、実験を行った。提示条件は1)事故発生まで全て提示する、2)事故場面まで段階的に映像を提示する、3)全て口頭で交通場面を説明する、の3条件であった。提示した場面には顕在、潜在、行動予測の各ハザードが含まれる。運転者は、大型バス乗務員を対象に熟練者と初心者、熟練者同士、初心者同士でペアを組み、映像を見て運転上気をつけるべき点を自由に対話してもらった。対話の模様は録画し、データの文字起こしを行った上で分析した。その結果、最も発言量及び運転者相互の意見交換が多かったのは条件2)であった。条件2)3)は一方の運転者の独白が多く見られた。 次に、適切な教育を行うには、教育実施者が運転者に対しその思考パターンを踏まえたフィードバックを行う必要があるが、教育実施者である管理者と運転者の、事故やその1つの原因である手順違反に対する思考パターンの特性が明らかではない。そこで、管理者、運転者でそれぞれグループを作り、「特定の手順違反が発生する原因とその防止対策」をテーマに各グループで討議を行い、意思形成に至る発言の量的な特性と、原因および対策として有効と考える事項の質的な分析を行った。討議は、司会者がテーマを説明し、進捗に応じて手元の用紙に討議結果を記入する方法で行った。その結果、発話量は運転者の方が多いが、用紙の記入に際し漢字や記入内容を確認するための独白・復唱が多く、普段の業務で書類作成に不慣れな運転者に、教育の場で用紙への記入を求める形式での討議実施には、記入をより容易にするなどの工夫が必要であることがうかがわれた。また、手順違反発生の原因に関し、管理者は運転者の意識、運転者は道路状況など自分以外に帰属する傾向がみられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.まず、受講者の事前学習を行う上で適切な事故映像の提示方法を明らかにするため、映像提示方法を3条件1)事故発生まで全て提示する、2)事故場面まで段階的に映像を提示する、3)全て口頭で交通場面を説明する)に変化させ、運転者による運転上の留意点に関する発言を記録した。運転者は、大型バス乗務員を対象に熟練者と初心者、熟練者同士、初心者同士のペアである。その結果、最も発言量及び運転者相互の意見交換が多かったのは条件2)であった。条件2)3)は一方の運転者の独白が多く見られた。 2.次に、運転者と教育実施者である管理者の、手順違反に対する認識と対策策定にいたる意思形成過程の差異を明らかにするため、管理者、運転者でグループを作り、「特定の手順違反が発生する原因とその防止対策」をテーマに各グループで討議を行った。これを通じ意思形成に至る発言の量的な特性と、原因および対策として有効と考える事項の質的な分析を行った。その結果、発話量は運転者の方が多いが、用紙の記入に際し漢字や記入内容を確認するための独白・復唱が多かった。また手順違反発生の原因に関し、管理者は運転者の意識、運転者は道路状況など自分以外に帰属する傾向がみられた。 3.さらに、事前の学習課題作成に向け、主な事故原因である手順違反(安全確認行動の不履行)が生じやすい場面について質問紙調査を行ったところ、1)交通他者への配慮、2)あせり、3)他者(乗客含む)のいらだち、4)「他者に見られていない」という意識、5)他者の不在という因子が得られた。各因子について、各因子が示す場面における手順違反の実行状況、手順違反に対する抵抗感、危険と得られる利益の感じ方について、より詳細な質問紙調査を実施中である。 4.加えて反転学習教材作成に向け、運転時の安全確認行動を行ったとき/省略したときの注視行動を測定し、確認の有効性について視覚化を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度以降は、これまでの結果を踏まえ、事前学習教材の見直しと集団討議の進行方法の検討を行う。 1.事前学習教材の作成と見直し 次の順で受講者が検討を行う教材を作成する。(1)運転者の場合、手順違反を含む事故原因を外的要因に帰属しがちであることの自覚を促す、(2)確認行動の省略といった手順違反が生じやすい具体的な運転場面の理解を深める、(3)(2)の場面について、確認行動を省略したときの注視行動とそのリスクについて見える化する。 2.集団討議の進行方法の検討 複数人で討議を行う場合、司会等による適切な介入がないと、運転技能や一般的な危険予測に議論が終始するおそれがある。この段階に留まらず、討議を自己に有利な判断スキーマの変容につなげるには、運転計画や自己の内心の状態をふり返り自己コントロールを行う意欲を喚起する必要がある。そこで、事前学習を踏まえ、討議の参加者(運転者)に対し、1)司会者が手順違反を行う理由について内省を促し、自己コントロールという観点から討議を指導するグループ、2)司会者が単に手順違反を行う理由について討議するよう求めるグループに分け、討議の質・量を比較する。なお、両グループには、教育機会の平等という観点から、異なる条件での討議も実施する。討議時には、討議内容をメモする記入用紙を用いるが、昨年度用いた記入用紙の形式は、運転者にとって負担が大きい可能性がある。そこで、記載する文章の量を減らす等の見直しを行った上で、本年度以降の討議において試行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度に関しては、物品に関し保有する機材で実験を行うことが可能であったため、本予算による新規の購入は行わなかった。 また人件費その他について、実験として討議を行う時間の長さを協力者と協議した結果、当初予定よりも実質的な討議時間(分析対象となる時間)を短縮したため、それに伴うデータ起こし等作業の所要時間が見積もりより減少したことから、少なくなった。 旅費その他に関し、研究代表者が各種学会に参加する予定であったが、身内の事情(弔事)により参加できなくなったこと、また上記事情のため協力者・関係者との打合せ等のために移動する機会自体が減少したことから、見込みよりも使用額が少なくなった。
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次年度使用額の使用計画 |
物品に関し、本年度以降試行する事前学習教材の媒体として、ノートPC、iPadを用いる予定である。討議参加者に対し,同時に同じ条件で教育を行うため、討議参加人数分(少なくとも5台以上)の購入が必要である。また、討議内容をより鮮明に記録するためには、指向性マイクのような録音機材が必要であるため導入する。 また、平成29年度以降は、前年度よりも実施する討議の回数を増やし、事前学習教材の有効性および討議の進行について調査を行う。討議は協力者の社屋等所在地で行うので、旅費およびデータ起こし等の作業にかかる人件費・謝金の増加が見込まれる。加えて、各地で開催される学会にも研究代表者、分担者がそれぞれ参加予定なので、旅費に加え学会参加費の増加も見込まれる。
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