研究課題/領域番号 |
16K01076
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
山崎 敦子 (慶祐敦子) 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (10337678)
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研究分担者 |
江藤 香 日本工業大学, 工学部, 准教授 (70213551)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | タブレット端末 / 背景色 / 脳機能 / 高齢者 / ワーキングメモリ / NIRS / 脳活性 |
研究実績の概要 |
2016年度では高齢者の集中度と短期記憶を査定するタスクに対するスクリーン画面背景色の効果を探った.実験では異なった5つのスクリーン背景色(白,青,緑,赤,黄色)で,集中力と短期記憶タスクを高齢者の被験者に行わせた.図形とテキストの色は全ての背景色に対して黒とした.全てのタスクはタブレット端末上で,マウス操作がない方法で行なった.被験者は色覚等が正常な健康で自立した生活を送っている65歳以上の男女で,集中度タスクでは10名,短期記憶タスクでは7名が参加した.集中度タスクとして,画面にランダムに並ぶ3種類の図形から丸のみ数えて答える作業を被験者に行わせた.短期記憶を査定する作業としては,下線を引いた単語を覚えるリーディングスパンテストを行わせた.どちらのタスクにおいても,休憩をはさみスクリーンの背景色を変え,受験者の得点が背景色で異なるかを調べた.タスク終了後のアンケートで,被験者の色の好み,感じた疲労度と集中度についてのデータを集めた.タスク作業中における被験者の脳の前頭前野部分の血流量変化をNIRS(Hitachi WOT-100,16 channels)で測定した.得られたNIRSシグナルから,背景色の違いによりタスク正答率が異なるのか,脳の働きに違いがあるか,どの脳部位で違いが顕著かを分析した.この実験では,集中力タスクの正答率は白が最も低く,青と緑が最も高い結果となった.リーディングスパンテストについては,背景色による正答率の違いは小さかったが,白背景が最も高い結果となった.NIRSシグナル分析の結果は,丸数えタスクでは白背景のほうが青などの背景色に比べて血流量が高くなり,リーディングスパンテストでは白背景の時よりも青背景のほうが脳の活性化があることを示し,より負荷がかかることで正答率は下がるが,前頭部分が活性化されることを示唆した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書で示した計画の通り,2016年度では高齢者を被験者として集中度と短期記憶を査定するタスクに対するスクリーン画面背景色の効果を探った.実験では,のべ17名の高齢者からデータを得ることができ,分析結果からは集中度タスクと短期記憶タスクでは背景色の効果が異なる可能性があることが分かった.この結果は当初予想していたものとは異なっているが,研究の最終目標であるタブレット端末上でのタスクを通じて,高齢者の脳機能を活性化させる背景色に関して1つの方向性が得られたと考えている.高齢者被験者の数が予定を下回った点については,データ分析の上からも改善が必要である.研究結果については,2016年度の国際学会(KES 2016)で論文1報を発表した.脳活性の観点から更に分析した結果については,2017年度の国際学会で発表する予定であり,これについてもほぼ予定通りである.
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今後の研究の推進方策 |
2017年度においては,初年度と同様の手順で集中力と短期記憶を査定する実験を行う.高齢者被験者は20名ほどを予定している.全被験者について,タブレット端末を用いてタスクを行っている間の脳血流量変化をNIRSで計測する.アンケートで被験者の色の好み,疲労度,集中度についてもデータを集める.2016年度と2017年度の実験結果を合わせて分析し,高齢者にとって集中力,短期記憶をより高める背景色を探る.NIRS計測データも,28年度で得られた結果と合わせて分析し,背景色でタスク正答率に違いがあるかを検証し,脳の血流量変化がどの部位で高いか,活性化されるのはどの部位かを背景色により分析して,タスク正答率結果と比較する.男女の違いについても検証する.2017年度後半からは,2016年度と2017年度で得られた実験結果をもとに,集中力と短期記憶タスク両方について正答率結果が良い背景色と良くないものを選択する.この2つの異なった背景色を用いて短期記憶トレーニングを行った場合,短期記憶タスクの正答率が上昇するかを調べる.被験者を2グループに分け,それぞれの背景色で提示されたトレーニング課題を行ってもらう.トレーニング前と終了後に集中力と短期記憶を査定するタスクを行わせて,2グループ間で正答率が異なるかを探る.短期記憶の向上には,記憶情報処理を担う前頭前野が関連していると言われている.そこで,トレーニングの前と後で短期記憶力を査定するタスク中の前頭前野の血流量変化をNIRSで測り,脳活性が異なるかを検証する.トレーニング課題としては,高齢者の短期記憶訓練として用いられている単語タスクを予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
タブレット端末上の短期記憶タスクを測定する実験ソフトは,昨年度に行った予備実験の条件を用いて最初は行い,その結果をもとに改良する予定であったが,被験者数が少なかったことと実験時期が年度末に近かったため,改良案作成のための実験が2016年度末になり,改修のための実験ソフト開発費用を使用できなかった.また,被験者数が予想の人数に達しなかったため被験者への謝金支出が計画よりも少なかった.さらに医療関連の国際学会に参加し,高齢者の脳活性に関する研究についての分析方法などに関する情報を得る予定であったが,2016年度では学内業務のため参加を見送らざるを得なかったため,研究旅費支出が計画より少なくなった.
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次年度使用額の使用計画 |
2016年度に行ったリーディングスパンテストの難易度が高齢者の被験者に対して適切でないという結果をもとに,実験で用いるリーディングスパンテストのソフトを2017年度に改良する予定で,この費用に約300千円を予定している.また,今後に被験者数を増やすことを計画しており,被験者への謝金支出の増額分として100千円を見込んでいる.2017年度6月に開催される医療関連の国際学会(KES-InMed-17)に,高齢者の脳活性関連研究と分析方法などに関する情報を得るため,本研究の共同研究者とともに参加予定であり,参加費と旅費として約400千円を支出する計画である.
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