本研究の目的は、最新の意思決定理論を用いて授業実施時における教師の即時的意思決定について新たなモデルを開発することである。 まず(1)教師の即時的意思決定研究における教師の推論様式に関する研究はほとんどない、(2)「限定された合理性」の制約により規範的な意思決定を行えないことが分かった。そこで熟達教師(1名)を対象に行った授業研究から、(1)教師の推論は事象から原因を時間的に遡って解釈する方向で行われ、時間的、認知的制約のため1度に1つの推論しか行われない、(2)推論の様式はabductionであることが分かった。 次に、熟達教師が即時的意思決定を行う際の他者理解を検討した。先行研究によれば、児童・生徒の内面は発言や行為を通して間接的に知ることができるとする理論説やシミュレーション説と、直接的に知ることができるという直接知覚説に2分されており、両説を調停するために2重過程理論を援用して教師の即時的意思決定における他者理解において2つを使い分けていると結論づけた。そして最新の意思決定モデルである再認主導意思決定モデルと臨床推論モデルを検討したところ両モデルとも熟達者の意思決定の特徴である直観をモデルに組み込んでいた。なお他者理解は近年新しい成果が次々と産出されているために、その検討に予定より大幅に時間を要したため予定が遅れた。 そこで授業における即時的意思決定のモデル開発に代わり、その1つ手前のプロトタイプを考案することに変更し、最終年度に授業における即時的意思決定のプロトタイプを考案した。このプロトタイプの特徴は、(1)教師の熟達のレベルにあわせた複数のモデルを作ったこと、(2)熟達教師の思考の特徴である直感をモデルに組み込んだことである。 本研究の成果は今後論文にまとめて公表する予定である。またこのプロトタイプをモデルへ練り上げその有効性を確認することが今後の課題である。
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