研究課題/領域番号 |
16K01118
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
中村 隆敏 佐賀大学, 芸術地域デザイン学部, 教授 (70509786)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | MR立体視 / 高精細タブレット / 伝統工芸技能支援 |
研究実績の概要 |
本研究の骨子は伝統工芸陶磁器絵付け技能支援のため、4K高精細立体視動画と筆圧制御高精細画素タブレット、MR用HMDを用いた技能学習支援教材を開発することで、職人希望者に対し文様や絵柄の模写再現技能修得の期間短縮を目指すことである。国内伝統工芸の衰退の原因として、後継者不足問題があげられる。通常、伝統工芸の技能習得は、長期間の師弟関係の元に行われていくが、職人の高齢化により技能習得の機会不足が深刻化している。 本研究ではデジタル技術を活用し、陶磁器絵付け伝統工芸職人の手わざによる運筆を職人目線対応の小型立体視用4Kビデオカメラで撮影し、加速度センサや三次元入力デバイスで描画速度を記録し、スタイラスペンで筆圧を記録していく。陶磁器の絵付けに関しては運筆の速度と筆圧の力加減が重要であり、それが生きた線として表現されてくる。学習者は記録された高精細の立体視動画を筆圧感知高精細画素タブレットで確認し、職人の運筆に合わせて動画上から模写し、再現していく。使用するスタイラスペンは職人の癖に合わせて筆圧レベルを調節してあり、運筆速度や線の入りや抜きの筆圧技術を模写しながら確認することができる。さらにMR(Mixed Reality)システムとHMD(Head Mounted Display)を用いれば直接、実体物に描画模写を行える。 本研究は、職人の運筆における高精細の動画と力学データによる視覚と触覚アーカイブスとしても重要な知見となる。従前の技能伝承における「あいまいさ」「暗黙知」を「形式知」として提供し、伝統工芸の継承分断を防ぎ、職人希望者と師匠の伝承を補完する教材制作を開発する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、筆圧制御高精細液晶タブレット及びスタイラスペンをアプリケーションツールとして業務活用しているコミック、アニメーション、3DCG、映像編集等のワークフローやノウハウを調査した。詳細な描画能力の手作業の部分をデジタル化する技術とツールとして専門的なインタフェースの概要調査を行なった。 また、現在のMRや立体視コンテンツ制作は、システムの複雑化から統一化へ進んでおり、3D コンソーシアムガイドラインによる立体視やバーチャルリアリティ及び拡張現実コンテンツ制作の標準化を確認し、制作に対応する必要な機器やアプリケーションの実態を先行する大学や研究機関、民間制作プロダクションを訪問しワークフローを調査した。 更に、コンテンツインタフェースとしてメディアアート、デザインの調査も行い、インタラクティブな教材デザインを検討した。MRコンテンツ設計に関しては、開発最適化のワークフローを国内等の専門機関、先進コンテンツプロダクションや大学研究施設を訪問し検討した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は陶磁器絵付け職人の立体物描画作業を4K高精細動画と加速度センサや三次元入力デバイスにより記録する。有田焼の高度な上絵付け技法の描画工程は、指先の動きや運筆など繊細で緻密な記録データとなる。そのため、職人の頭部や胸部、手首に小型4Kカメラや加速センサを装着してもらう。加えて作業全体を俯瞰するカメラや固定カメラも準備しておく。 また、壺や大皿等、立体物への描画作業時はMR環境用として描画対象物全体を複数カメラで同時に撮影しておく。高精細の動画と連動する職人の運筆データの視覚及び触覚アーカイブスとしても重要な知見となる。 熟達者が行う陶磁器の絵付け作業は、日本画の技法が基となっており、絵の具は顔料と水と膠を用いる。ただ、紙ではなく一度焼成した陶磁器のガラス質表面であり、曲面の場合は筆に含ませる絵の具の量や筆圧の加減が重要となる。高解像度の動画ではそのような微妙な描画状況を逃すことなく記録することが必要であり、伝統工芸の技術アーカイブスとしても画期的なコンテンツと成る。 以上の研究成果や知見を社会に還元するために、伝統工芸における後継者不足とテクノロジーによる課題解決に関してセミナーやシンポジウムを行う。そこでこれまで開発した技能支援教材とともに描画技能支援教材に関しても報告を行う。
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