本研究では高齢歩行者を対象として,視聴覚機能の低下によって交通事故に遭う危険性のある高齢者を教育できるシステムを構築した。最終年度では,拡張現実(以後,AR)を用いて実際の交通環境において,車両のみを仮想的に再現可能なシステムを構築した.また,歩行者が直線の車道を横断し,横断時に仮想車両と衝突する危険が生じた場合,警告可能な車道横断能力教育システムを開発した.この車道横断能力教育システムを用いて,若年者および高齢者を対象として,車道横断検査実験および車道横断教育実験を実施した.その結果,高齢者は若年者と比べ,車道横断能力に統計的な有意差は生じなかった.その原因として,高齢者は非常に個人差が大きく,若年者と変わらない能力を有している高齢者も多かった.しかし,高齢者の中には車道横断能力の低下した高齢者が存在し,我々の構築した検査システムが能力の低下した高齢者を検出できることも明らかになった.さらに,我々の提案した視覚警告による車道横断能力教育システムは教育効果が低かった.これは,視覚刺激による教育であったため,若年者に対しても,高齢者に対しても警告手法としては十分でなかった可能性が挙げられる. 没入型VRソリューション(通称CAVE)を用いた仮想交通環境での検査システムの車道横断能力結果およびARを用いた実空間での検査システムを用いて車道横断能力検査結果を比較すると,高齢者は主に右側から接近してくる車両の確認が多く,事故に遭う高齢者はそのほとんどが左側から接近してくる車両と衝突していることがわかった.これは,高齢者が直線の車道横断中に左右の車両をほとんど確認しないで横断することが原因であることが示唆された.したがって,高齢者の車道横断時の交通事故を減少させるためには,車道の左側から接近してくる車両に対する警報および教育手法を提案する必要があると考える.
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