研究課題/領域番号 |
16K01136
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研究機関 | 星槎大学 |
研究代表者 |
斎藤 俊則 星槎大学, 教育実践研究科, 准教授 (80434447)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 情報教育支援 / プログラミング / デジタル・エージェンシー / 社会参加 / ケイパビリティ |
研究実績の概要 |
平成29年度、本研究者は研究計画に従い協力関係にある当該NPOにおいて年度内に39回のフィールド調査を実施し、加えて当該NPOスタッフ(支援者)及び利用者(被支援者)との多数のオンライン上でのコミュニケーションを行った。フィールド調査の内容は主にプログラミングを中心とする勉強会の開催、その中での参加者(支援者、被支援者双方)たちの学習を通した情報技術理解及び学習全般に関する意欲や技能向上への支援、及びその間の参加者や彼らを取り巻く当該NPO全体の様子の観察と記録であった。フィールド調査にあたっては、アクションリサーチの基本理念に従い、本研究者は支援者、被支援者との共同学習者としての立場からその都度共同的に学習課題を模索、設定し、特に被支援者による情報技術への親しみと知識・技能の向上を目指しながら支援を行った。また、その間に得られたデータ(主にフィールドノーツと映像記録からなる)から、今年度は1.ケイパビリティ形成の観点による学習スペース内の情報環境の機能及び学習スペース利用者のICT利用実態の評価、2.学習スペース内の情報環境改善に伴う利用者・支援者の意識及び行動の変化の理解、3.プログラミング勉強会参加者によるプログラミングを学ぶことの意味と学習成果の認識の把握、4.プログラミング勉強会への継続的な参加による学習スペース利用者の社会参加に対する意識と行動への影響の確認、の4点を中心に反省的な分析を通じた課題把握を行った。進捗状況で述べる通り、特に1、3、4について成果が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は特に1, 3, 4について相応の成果があったため。1は情報教育支援を通して被支援者たちは(1)新たなテクノロジーの社会的な普及に自律的にキャッチアップすること、(2)テクノロジーへの自律的なキャッチアップを通して「テクノロジーは自己の動機や関心に基づいて習得し活用しうるものであること」を知ること、(3)テクノロジーの習熟により他者への貢献の機会が拡大すること、といった成果を得ることができた。また、(4)社会的ニーズのあるテクノロジーを習得することを通してキャリアの選択肢を拡大すること、といった課題に自ら取り組むことができた。これらはテクノロジーへの関わりを通した幅広い意味での社会参加に関わるケイパビリティの拡大であると評価できる。3は、プログラミング勉強会に参加する被支援者たちはプログラミングを知的な課題への挑戦として学び、自らの知的な潜在能力への自覚や信頼を構築した。また、プログラミングの力量を通して被支援者がそれまで必ずしも積極的でなかった支援グループの情報化ニーズに対する解決への取り組みに参加し、支援グループの中での新しい貢献の可能性を見出すに至った。また、被支援者たちはプログラミング勉強会での自らの学習を振り返ることで、テクノロジーを自己主導的に学ぶことが可能であることを自覚しつつあることが確認された。4はプログラミングへの継続的な参加が、学習スペースを利用する被支援者たちの自律的かつ自己主導的な学習への取り組みを定着させる契機となったことが確認された。特に当該研究者と被支援者との関係は、「教師-生徒」的な関係から「共同学習者」ないしは「共同作業者」としての関係に近づきつつある。この背景には、被支援者が単なる勉強会の参加者であることを超えて、グループへの貢献につながる課題に自らの意思に基づいて向かう自律的な学習者に近づきつつある事実がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は平成29年度中に十分に着手できなかった「情報技術・情報科学の知識・技能に関するケイパビリティ」の理論化を、来年度の研究計画と合わせて進めて行くつもりである。特にフィールド調査の中で経験的に得られた「自律的・自己主導的な社会参加に向けたテクノロジー習得への取り組み」に対する本研究者の認識を、情報・テクノロジー習得がもたらすケイパビリティの拡大を説明する理論的枠組みの形で抽象化する必要がある。さらに支援グループは昨年度より地域コミュニティ(地元商店会)の情報化ニーズへの取り組みを自ら引き受けた。また、支援グループ内でも今回の勉強会の成果を試すテストケースを兼ねた情報システム作りに着手するなど、被支援者が獲得した情報・テクノロジーのキャパシティを社会参加の拡大に結びつけることを視野に入れた新たな取り組みが始まりつつある。これらの取り組みの中で上述の「ケイパビリティ」の理論化を進めることが今年度の課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
論文提出に際して日程上の都合から英文校正を使用することができなかったことが主な理由である。平成30年度は常時行うフィールドワークへの交通費、国際会議(OCCE2018)および国内学会への参加旅費、およびジャーナル執筆に伴う英文校正費用、質的分析用ソフトを稼働させるためのノートPCの購入などに用いる予定である。
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