研究課題/領域番号 |
16K01144
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研究機関 | 大阪成蹊大学 |
研究代表者 |
浅井 宗海 大阪成蹊大学, 教育学部, 教授 (90511816)
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研究分担者 |
井藤 元 東京理科大学, 教育支援機構, 講師 (20616263)
羽野 ゆつ子 大阪成蹊大学, 教育学部, 准教授 (50368437)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 授業観察力 / 授業実践力 / 学習支援システム / 授業ビデオ / ビデオアノテーション / 威光模倣 |
研究実績の概要 |
本研究は、現場体験が重視される昨今の教員養成において、学生の授業実践力の育成に寄与する学習支援システムと学習プログラムの構築を目指す。具体的には、ビデオアノテーション機能を有するシステムにより、授業実践に対する観察力を育む訓練プログラムを開発し、教師の定型的・適応的行動への理解促進、学生が既得している観察フィルターの適正化、教師の教育観への理解の深化を図るものである。さらに、実践力を磨くにあたって極めて重要な要素である、学生の志向に合った教師との出会いを、複数のモデル教師による授業ビデオが視聴でき、かつ、その教師と時間と場所の制約を越えて対話できるシステムによって、その出会いの確率を高め、威光対象となる教師からの学びへとつなげることを目指している。 2016年度は研究開始年度であり、年度前半において、大阪成蹊大学教育学部2年生前期配当の専門選択科目「教育の事例研究」を使って、ビデオアノテーション機能を有するシステムによる実証実験を行った。当該授業の4回目(2016年5月12日)と13回目(7月12日)を使い、教諭歴30年の滋賀県の現職教諭の授業ビデオを観察させ、学生の観察の変化を調査した。この間、2年生のほとんどは2週間の小学校でのインターンシップを体験しており、体験との関連性も調査した。アンケートとビデオ観察の書き込みから、観察力向上の有効性が期待できる結果を得た。 上記の実証実験等から、当該システムのビデオ観察の書込み様式が一つでは、分析の観点がその様式に縛られてしまうことが危惧されるため、授業ビデオを分析する様式を追加・変更する機能を追加した。また、ビデオ内の授業活動をより詳細に分析できるようにする目的で、ビデオ画面とは別に、授業指導案や配布物なの授業資料が提示できる画面を表示することのできる仕組みを追加した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度は 5つの事柄について、それらの実施を計画した。(1) 開発済みのビデオアノテーション機能を持つ学習支援システムを、授業ビデオを観察できる仕組みに改修する。具体的には、授業ビデオを共有・選択する機能、指導案とビデオを連動表示する機能、教師行動を分析する様式を登録する機能などをシステムに追加する。(2) モデル教師となる教員を探し、その授業を撮影又は撮影したものを入手し、学習支援システムのビデオライブラリに登録する(数名分の授業ビデオを予定)。(3)入手したビデオを学習支援システムに登録し、改修によって学生の授業観察の訓練に利用できるかを、研究メンバーと数名の学生の被験者により機能テストを行う。(4)機能テストより問題点を洗い出し、学習支援システムの改善を図る。(5)日本教育工学会の全国大会又は研究会にて、改修した学習支援システムの新規性を中心に発表し、研究者との意見交換を図る。 (1)については、指導案とビデオを連動表示する機能と、教師行動を分析する様式を登録する機能を学習支援システムに追加し、改修を行った。(3)については、大阪成蹊大学で行われている授業を使い、予定していた規模より多い、30名ほどの学生を対象に実証実験を行うことができた。また、他者のコメントを確認できる点や観察する視点の増加等について有効であることが分かった。(5)については、日本教育学会の全国大会および日本教育工学会の研究会で発表し、意見効果を行うことができた。 しかし、(2)については、授業ビデオの登録が1件のみにとどまっており、授業ビデオの本数の充実を図る必要がある。また、(4)については、(3)の実証実験を行った授業の時期が前期であったため、 (1)でのシステム機能追加作業が間に合わず、機能テストは2017年度に改めて行うこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の具体的な課題は、(a)~(d)を明らかにすることである。(a)ビデオアノテーション機能を持つ学習支援システムに、指導案とビデオを連動して視聴する仕組みを作り、これにより授業観察することで、教師の定型的・適応的行動の理解促進効果を測る。(b)このシステムを用い、学生の観察フィルターを変容させ、教師の教育観への理解を深化させる方法として、授業ビデオの分析を助ける様式の利用、他学生の分析結果との比較、モデル教師との意見交換などを行い、それらの方法の有効性を検証する。(c)以上のシステムと方法を用いた学習プログラムが、学生の現場体験での教師理解の向上に有益であるかを検証する。併せて、(d)様々な教師の授業ビデオ観察を通して、学生が志向する教師に出会えた場合、その教師理解への欲求が高まるかを検証する。 ここまでに、大阪成蹊大学教育学部の授業を使って行った実証実験により、本システムによる観察の有効性、インターンシップでの有効性について概ね良好な結果を得ることができた。また、本システムに、指導案とビデオを連動して視聴する機能と、授業ビデオの分析を助ける様式を登録する機能を追加した。 従って、今後の研究活動としては、本システムに追加した機能について、教師の定型的・適応的行動の理解促進等への効果について、実証実験により検証する。また、学生の観察フィルターの変容や、教師の教育観への理解が深化するかを確認するために、ライフストーリー・インタビューや、モデル教師との意見交換を実施して検証する。 様々な教師の授業ビデオ観察を通して、学生の教師理解への欲求が高まるかを検証する点については、授業ビデオの登録が1件にとどまり、実験環境が整備できていない状況にある。従って、これまで小学校の教員に限定して収集していた範囲を広げ、幼稚園教員から高校教員まで広く授業ビデオを収集し、登録件数を増やす。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度の実支出額は、使用予定額の半分ほどであった。その大きな理由は、当該年度で行う予定であった、開発済みのビデオアノテーション機能を持つ学習支援システムの改修において、一部の機能の実装を繰り越したためである。それは、モデル教師となる教員を探し、その授業を撮影又は撮影したものを入手し、学習支援システムのビデオライブラリに登録するという活動において、進捗が遅れ、登録できたビデオが1件にとどまったため、複数の授業ビデオを共有・選択する機能について、今年度は実装しなかったことによる。 併せて、登録した授業ビデオについては、既に録画されたデータの提供を受けたため、授業を撮影するビデオ装置について、当該年度での購入を見送ったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度は、遅れていた学習支援システムに登録する授業ビデオの充実に向けて積極的に活動し、登録件数を増やす予定である。したがって、繰り越した学習支援システムに複数の授業ビデオを共有・選択する機能の追加、及び、授業ビデオの撮影に必要となるビデオ装置の購入を予定している。 また、学習支援システムの改修費として予定していた費用の一部については、2017年度に予定するシステムの機能テストとして行う実証実験より問題点を洗い出し、2018年度にシステムの改善を図る費用として利用する予定である。
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