研究課題/領域番号 |
16K01159
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
馬場 幸栄 一橋大学, 附属図書館, 助教 (10757363)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 緯度観測所 / 国立天文台 / 天文学史 / 科学技術史 / ガラス乾板写真 / 登録有形文化財 |
研究実績の概要 |
緯度観測所の「主要な出来事」に関する基本情報をまとめるため、緯度観測所刊行物(『緯度観測所彙報』『緯度観測所報』等)の収集・調査を行った。特に『緯度観測所報』には行事・人事についての詳細な情報が記載されており、これまで緯度観測所の歴史を知る上で最も重要な文献であるとされてきた『緯度観測所75周年誌』(1974年)刊行以後の緯度観測所史を知るために有益な資料であることが確認できた。また、緯度観測所における「敷地・建造物」の変遷・構造に関する基本情報をまとめるため、前年度に開始した国立天文台水沢VLBI観測所収蔵『土地建物関係書綴』等の解綴・修復作業を完了させ、平成30年度に計画しているそれら文書類の高精細デジタル撮影に備えた。前年度に引き続き緯度観測所元所員とそのご家族への聴取調査も実施し、国立天文台水沢VLBI観測所収蔵の緯度観測所ガラス乾板から復元した写真の被写体・撮影場所・撮影年代等に関する情報を収集した。また、データベースソフトを使って「緯度観測所ガラス乾板写真データベース」を制作して緯度観測所ガラス乾板およびその被写体情報等を入力し、それらを検索を容易にした。 本研究で整理・修復・調査した緯度観測所建造物関連の文書・図面・写真等が歴史的証拠として評価され、緯度観測所建造物4棟(岩手県の水沢に現存)が国の有形文化財として登録された(平成29年10月)。加えて、聴取調査の過程で、緯度観測所元所員やそのご家族の自宅を訪問した際に緯度観測所史に関する貴重な資料(文書、写真、絵画、映像等)数点を新たに発見した。 研究成果を市民や研究者に広く発信するため、岩手県で緯度観測所ガラス乾板写真展や講演会を開催し、新聞社・テレビ局の取材にも積極的に応じた。また、国内学会や国際コンソーシアムで口頭発表・ポスター発表を多数行い、論文も発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究によって発見・整理・修復・調査された緯度観測所の文書・図面・写真等が緯度観測所建造物の特徴・機能・価値を示す歴史的証拠として認められ、岩手県の水沢に現存する緯度観測所建造物4棟が平成29年10月に国の登録有形文化財となった。この文化財登録のニュースは『官報』によって告知されたほか、世界に向けて配信されている『国立天文台ニュース』にも取り上げられ、また岩手県のテレビ・新聞でも大きく報じられた。これにより、緯度観測所が近代科学の発展に果たした役割を市民や研究者に広く発信してその再評価を促し、なおかつ、過疎化・高齢化が進む水沢に歴史観光資源を増やすという本研究の目的の一部が達成された。 さらに、研究成果を発信するためにこれまで開催してきた展覧会や講演、および、それらに関する新聞・テレビ・ラジオ報道の効果によって、これまで連絡先不明だった緯度観測所元職員やそのご家族から本研究に協力したいという申し出を多数いただいた。その結果、平成30年度に予定していた聴取調査の一部を前倒しして平成29年度に実施することができた。 また、緯度観測所元所員やそのご家族を訪問して聴取調査を行った際に個人宅に収蔵されている緯度観測所関連資料(文書、写真、絵画、映像テープ等)を多数発見することができた。これらの個人収蔵資料には国立天文台水沢VLBI観測所収蔵資料にも見出されない緯度観測所史関連情報が多数含まれており、これら個人収蔵資料の発見によって、より正確な緯度観測所史の再構築が可能となった。 そのほか、国立天文台水沢図書室の協力により、平成30年度に予定していたアルバム撮影の一部を前倒しして平成29年度に実施することができた。また、国立民族学博物館の技術担当者から助言を得たおかげで、平成30年度に予定していた映像フィルムデジタル化の一部も前倒しして平成29年度に実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き緯度観測所の「出来事」「職員」「敷地・建造物」「観測機器」に関する歴史情報をまとめるために国立天文台水沢VLBI観測所が収蔵する文字資料・非文字資料の収集・整理・調査を実施し、『緯度観測所史料集(仮)』の編纂準備を進める。なお、本研究は当初、国立天文台水沢VLBI観測所収蔵資料のみを調査対象とする予定であったが、調査の過程で元所員やそのご家族のご自宅から緯度観測所史に関わる重要な個人収蔵資料がいくつか発見されたため、それら個人収蔵資料から補足できる歴史情報があればそれらも緯度観測所史を再構築する際に採用してゆく。 本研究がこれまでに開催した写真展・講演会や本研究に関する新聞・ラジオ・テレビ報道の影響によって、当初の予想をはるかに上回る人数の緯度観測所元所員やそのご家族から聴取調査への協力が得られることとなり、現在は調査対象者に順番待ちをお願いしているほどの状況である。しかしながら、聴取調査対象者の多くが70歳代~90歳代というご高齢であるということ、また、本研究の聴取調査においてこれまで貴重な歴史情報を提供してくださった元所員のなかにはその後鬼籍に入ってしまわれた方もいることから、聴取調査は一刻を争う事態にある。そのため、平成30年度は聴取調査を本研究における最優先事項として各地を訪問し、年齢の高い方から聴取調査を進めてゆく。また、聴取調査後の文章作成作業にかかる時間を短縮するため、個人情報管理に細心の注意を払いながらビデオ撮影等による映像・音声の記録作成も今後は積極的に取り入れてゆく。また、もし聴取調査のための旅費が足りなくなった場合は、文書等のデジタル化作業の一部を外注せずに自ら行うことによって、その予算の一部を旅費に充当してゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続き、平成29年度も緯度観測所元所員およびそのご家族から本研究に協力したいという申し出を多数いただき、聴取調査のために各地を訪問した。また平成29年度は研究成果を広く発信するために学会・研究会での研究発表を精力的に行った。結果、平成29年度は旅費の支出が当初の予定を205,220円上回った。さらに、ご高齢の元所員やそのご家族を対象とした聴取調査においては出来るだけ大きく引き伸ばした紙焼き写真(A3ノビなど)を持参することでより詳細な記憶の呼び起こしが可能となることがわかったため、紙焼き写真を大量に制作する目的で、物品費(写真用紙、インクカートリッジ等)を当初の計画より98,958円多く支出した。 いっぽう、平成29年度はその他の経費として『国有財産関係書類』高精細デジタル化および『土地建物関係書綴』等解体・修復のために444,000円の予算を計上していたが、『国有財産関係書類』高精細デジタル化および『土地建物関係書綴』解体・修復作業の一部が平成28年度に完了していたことと、残る文書の解体・修復作業を外注せずに自ら実施したことから、444,000円がそのまま残った。これにより全体で139,822円が次年度使用額として発生した。 この次年度使用額は、既に本研究への協力を申し出てくださっている緯度観測所元職員とそのご家族への聴取調査のための旅費にあてる計画である。
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備考 |
「いわて銀河フェスタ2017」(2017年8月19日、於:国立天文台水沢・奥州宇宙遊学館)特別展示において緯度観測所ガラス乾板写真を提供。 写真展「緯度観測所を支えた岩手の女性たち:ガラス乾板写真に記録された近代日本科学技術史」(2018年3月3日・4日、協力:国立天文台水沢VLBI観測所、於:奥州宇宙遊学館)を主催、講演「緯度観測所で活躍した水沢の若き女性たち」(2018年3月4日)を同時開催。
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