平成30年度は、緯度観測所の初期の歴史を物語る『土地建物関係書綴』と『雑部往復綴』をデジタル化した。両資料とも蒟蒻版の書類を多数含むため文章が部分的に消えかかっていたが、デジタル化によって画像処理が可能となり、可読性を高めることができた。また、緯度観測所の第二代所長・川崎俊一と第三代所長・池田徹郎について資料調査・聴取調査を行い、両者の学生時代からの親交・研究活動・教育活動・文化芸術活動・地域貢献を明らかにした。平成29年度に引き続き緯度観測所ガラス乾板写真についての聴取調査も行い、乾板写真に記録された戦前・戦中の同観測所所員の9割以上を特定することができた。主要な紙焼き写真とそのキャプションもデジタル化し、ガラス乾板写真の被写体・撮影時期の特定に役立てた。映像資料および音声資料は、デジタル化したファイルを文字起こしして内容を特定した。映像資料には緯度観測所所員がクモの糸を眼視天頂儀のマイクロメーターに張る場面が含まれていた。クモの糸をマイクロメーターに張ることはよく行われていたが、その様子を記録した映像は極めて珍しい。 本研究は緯度観測所史の再構築と再評価を目標として平成28年度から平成30年度まで実施された。緯度観測所歴代所長が文化芸術活動を通して地元水沢の名士たちと積極的に交流していたことや、同観測所が地域の女性を積極的に雇用していたこと等、それまで知られていなかった緯度観測所の歴史的側面を明らかにしてきた。また、歴史的な図面・文書・写真から同観測所施設の特殊性を明示することで、現存する緯度観測所建造物4棟を国登録有形文化財とすることを助けた。さらに、学会・展覧会・講演・新聞・ラジオ等を通して研究成果を広く発信し続けた結果、研究者・市民のあいだで緯度観測所が再評価されるようになり、令和元年には緯度観測所120周年記念イベントが各種団体によって準備されるまでになった。
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