研究課題/領域番号 |
16K01162
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研究機関 | 大阪教育大学 |
研究代表者 |
城地 茂 大阪教育大学, 国際センター, 教授 (00571283)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 算木数学 / 珠算数学 / 『楊輝算法』 / 『算法統宗』 / 方陣 / 李氏朝鮮 / 和算 / 『指明算法』 |
研究実績の概要 |
13世紀以降の東アジア科学の新潮流が、日本近世数学への影響を解明するために、台湾大学附属図書館で調査を行った。 京都大学数理解析研究所においてRIMS研究集会「数学史の研究」(平成28年8月29日-9月1日)を主催した。特に、8月31日には東アジアの数学のセッションを設けて討論を行った。また、自らも「台湾大学蔵『続神壁算法評林』(会田安明、1708年)と算額」を発表し、台湾に残る和算書(日本では写本が1冊のみの稀覯本)を通じて研究を進めた。その際に、長野市公文書館に同書があるとの情報もこの研究集会で得られた。 また、城地茂「朝鮮木版本『楊輝算法』の考察-高麗大学校木版本の発見をふまえて」を出版した(受理済、2017年出版予定)。これは、従来、稀覯本とされていた『楊輝算法』が李氏朝鮮に流布していたことを示すものである。『楊輝算法』は「近世」の珠算による数学書ではなく、算木による数学書なので、「古代」の完成形とも見られていたが、高麗大学校などで報告者が発見し、「近世」にも流布しており、この時代を代表する数学書であることが実証された。 城地茂(2017.3)「台湾の小学校における円周率の教育と数学史」『国際センター年報』21:15-21を出版し、上述の『楊輝算法』(楊輝、1275年)の系譜と言われている『算法統宗』(程大位、1592年)に記述されている22/7という円周率の近似値を小学校の教育に応用できないかという問いかけをした。 業績2と3で述べた『楊輝算法』と『算法統宗』は、「複雑に絡み合った近世の数理文化を時間的空間的に分類し、社会との関連を考察するため、数学遊戯(例えば魔法陣)のような類似的「科学」の伝来過程も調査研究する。」という本研究の「方陣」で有名であるが、中国では清代にこうした数学遊戯は割愛されてしまい、朝鮮版本の『楊輝算法』にのみ「方陣」が詳述されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
台湾大学附属図書館を調査し、日本では稀覯本である『指明算法』の所在を再確認し、それが『算法統宗』の口絵との類似点を確認しえたことが大きい。 また、その調査で、従来、知られていなかった500点以上の和算書を発見した。この数量は、アメリカ議会図書館以上のものであり、海外では最大級のコレクションである。これらは、まだ、目録すらもなく、全貌は不明であるが、台湾大学図書館の好意により実物を調査できた。 この調査で日本でも数冊しかその存在を知られていない会田安明の写本群を発見でき、報告者が「近世」として想定した高次方程式の解法の再認識に成果が得られた。 平成28年度の蔵書調査を通じて、数学書を分類整理して分析を進め、13世紀数学書である『楊輝算法』の高次方程式の解法が、「賈憲・楊輝・パスカルの三角形」から導かれた二項展開の係数を用いた「古法」による解法であるのか、それとも組立法による解法であるのかを分析するための資料が多数得られた。
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今後の研究の推進方策 |
上述のように、台湾大学(旧・台北帝国大学)において大量の和算書が発見されたが、これらを整理分類することによって、戦前に、台湾においてどのような和算教育がなされていたかを調査することも可能になった。 台湾では、植民地時代にも対岸の福建省や上海から、『指明算法』『算法統宗』などが伝わり、台湾で復刻された例もある(拙稿(2007.9)「瑞成書局版『指明算法』-日本統治時代の台湾における漢籍数学書の出版」『現代台湾研究』32:65-82)。こうした土壌において、どのように南中国数学が伝播したのかを調査し、先に述べた和算書による数学教育が根付いたかどうかまで論を進めたい。なぜなら、2016年度の調査で発見された台湾大学の和算コレクションは、台北帝国大学予科教授・予科長であった加藤平左ヱ門(1891-1976)のコレクションと考えられるからであり、近世の和算書を使った教育が中国語を母語とする人々に台北帝国大学予科においてどのように教育に使いえたのかも解明記できるできるかもしれない。台湾教育部(日本の文部科学省に相当)の研究計画申請を視野に、調査を進める予定である。 平成28年度の蔵書調査を通じて得られた和算書も含めた数学書を分類整理して分析を進め、13世紀数学書である『楊輝算法』の高次方程式の解法が、「賈憲・楊輝・パスカルの三角形」から導かれた二項展開の係数を用いた「古法」すなわち、古代的な解法であるのか、それとも和算的な(近世的な)組立法による解法であるのかを検証する予定である。
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