本科研プロジェクトの研究目的は、近世から近代(特に幕末から明治初期)の地域社会において、その地域の医療を支えた「在村医」の活動内容や地域内での位置づけはどのようなものであり、それらは、時代の流れとともに(特に明治維新前後に)どのように変遷していったのかを、中島家の所蔵資料などにより明らかにすることであった。 この目的に則り、まず同家などの資料の内容確認と翻刻を進めた。すなわち、「中島醫家資料研究」第1号と第2号(以下「紀要」)において、平崎真右が明治期の軍医の手紙、梶谷真司が売薬関連の資料、町泉寿郎が岡山県医学校と漢文学者関係の資料、平崎真右と松村紀明が中島家の家系資料、清水信子が産科資料を、それぞれ翻刻・紹介をしている。 そしてこれら資料に対する基本的調査の成果に基づき、中島家の医療活動について多角的な分析・考察を行った。すなわち、「紀要」において、木下浩が中島家の医療活動の領域分布について検討し、松村紀明が現代の医療制度の原点としての在村医の活動を分析することの意義について検討した。また、北川原慧林が英文により概観的に研究総括を行った。さらに、町泉寿郎が『医学教育の歴史:古今と東西』(坂井建雄(編)、2019年3月)収録の「江戸時代の医学教育〈1〉──瀬戸内地方の事例を中心に」において、中島家の医療活動の意義について漢蘭折衷という点から総括を行った。 以上から、幕末から明治初期における中島家の医療活動とその歴史的意味が立体的に明らかになったと考えている。そして、これらの研究成果は、前述の論文・書籍だけでなく、中島医家資料館における展示活動(詳細は「紀要」を参照)、同資料館のWebサイト(http://nakashima-ika.jpn.org)、明治大学リバティーアカデミーでの公開講座、『洋学史研究事典』(2021年刊行予定)などにより、一般に向け公開し社会に還元していることを申し添えたい。
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