2018年1月、優生保護法下での強制不妊手術が憲法違反であるとして国家賠償請求訴訟が起こされたのを契機に、優生保護法は社会的に大きな注目を集めた。新聞社等のメディアが取材する過程で公文書の開示請求を全国各地で行った結果、都道府県に保存されていた優生保護法関係資料の情報公開が一挙に進展した。都道府県は国の監督下で優生保護行政の実務を担っており、これらの公文書は戦後の優生保護政策の運用実態を解明するうえで中核となる資料である。また、並行して厚生労働省内に保管されていた政府関係の資料も、ウェブサイトで大量に公表された。こうした展開は、優生保護法史の研究環境を劇的に変化させたが、本研究を開始した2016年の段階では想定されていなかった。そのため、研究期間を一年延長し、協力者とともに優生保護関係の公文書等の収集と編纂を行い、その成果を『優生保護法関係資料集成』(六花出版、全6巻)として公刊した。 本資料集成では、地方自治体(北海道、青森県、岩手県、宮城県、山形県、千葉県、神奈川県、三重県、滋賀県、京都府、兵庫県、奈良県、鳥取県、岡山県、山口県、福岡県、大分県)所蔵の公文書およびパンフレットや冊子類と、厚生労働省ウェブサイトに公開された資料の一部を、優生保護法が公布された1948年から母体保護法に改正された1996年まで時系列で収めた。これらの資料は開示請求により収集されたものが主であり、個人情報に関わる部分はマスキングされている。また、公文書の保存状況は自治体によって様々であり、全てを網羅的に収集することは不可能である。それでも、残された公文書の記載、あるいは様式等から、優生保護行政が人々の身体にいかに介入したのかについて新たな知見を得ることができる。本資料集成は、優生保護法史研究を進展させるための基礎資料となるものである。
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