本研究は、東日本大震災および福島第一原発事故により顕在化した地域の抱える諸問題に起因する地域資料の劣化・散逸・消滅の危機を打開し、多様な資料の保全と情報集約ならびに公開等の活動を通じて、地域資料全体が抱える課題を解決するものである。あわせて、これらの活動の過程において、まちづくりや地域活性化に寄与し、総合的な地域課題の解決に結びつける「地域総合資料学」の有効性を実証することを目的とする。 平成30年度は、前年度に引き続き研究補助者の助力を得て、地域総合資料学の基礎となる歴史・民俗等の各種資料の所在情報を福島県全体にわたって整理し緊急災害時の備えとすべく、特に福島市・伊達市・郡山市・会津若松市・いわき市などでの郷土史関連の刊行物をもとに所在リストを作成した。平成28~30年度の調査成果は『福島県の地域社会の復興・再生を支える地域総合資料学 資料集』としてまとめた。 また、本年度は当該研究の最終年度にあたることから、地域資料全体が抱える現状と課題を検証するため、前年度末に福島県内59自治体、郷土史研究会など113団体に対して行ったアンケート(42自治体、72団体から回答)の分析に力を入れた。自治体に関しては文化財担当者のおかれた状況(人数、専門/一般職・兼任、長期/短期)の格差がありつつも、全体的に自治体史編さん事業の停滞もあって資料調査が進められずにいる実態が浮き彫りになった。歴史・文化団体はA中通り地域が最も多く盛んで、B旧警戒区域は震災前から郷土史研究が振るわず、C中山間地域は会津を中心に伝統ある団体や、小規模ながらも活動を維持する団体が多い。ただ、全般的に高齢化・後継者不足が深刻である。これらは全国規模での普遍的課題と思われ、地域から歴史学と資料保全を支える力が停滞している現状の打開策として、富岡町を始めとする被災自治体の先駆的取り組みに学ぶべきことを提起した。
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