黄檗に含まれるベルべリンの蛍光性を利用して,非破壊的に蛍光寿命を測定し,ベルベリン分子の周辺環境を測定したところ,経年等で劣化した染織品に用いられたベルベリンの蛍光寿命τ2が短くなることをから,ベルベリンの劣化生成物の生成量と蛍光寿命が劣化の指標化に用いることができるのではないかと提案した。 黄檗は布に対する染織だけでなく,黄檗経に代表されるように紙にも塗布されて用いられてきた。 そこで,今回黄檗に含まれるベルベリンを資料の状態を表す指標化に用いた場合の基底材(絹或いは紙)の影響について検討した。経年黄檗絹はHPLCにより主成分であるベルべリンの劣化生成物X1とX2が観察され,蛍光寿命測定によりτ2の値が劣化により小さくなることを報告している。経年黄檗紙は,HPLCによりベルべリンの劣化生成物X1とX2の両方が観察される場合と,X2のみが観察される場合がある。経年黄檗紙の蛍光寿命を測定し,ベルべリン劣化生成物との関係をまとめた。黄檗紙資料において,ベルべリンの劣化生成物であるX2は常に存在するが,X1が存在する場合としない場合がある。これは,絹の場合に黄檗の産地によらずX1とX2が観察されたので,黄檗の産地由来とは考えにくい。黄檗紙の製法の違いなのか,保存環境なのか,たまたまなのか,黄檗紙の資料数が少なくて,確定的なことは言えない。経年黄檗紙の蛍光寿命はどの場合でもτ2が短くなっており,黄檗絹と同様の挙動であった。 得られたτ2とベルベリン劣化生成物との関係は,X1とX2の両方が観察された場合には黄檗絹と同様の相関がみられたが,X2のみが観察された場合ではあまり強い相関を示さなかった。
|