研究課題/領域番号 |
16K01183
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研究機関 | 函館工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小林 淳哉 函館工業高等専門学校, 物質環境工学科, 教授 (30205463)
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研究分担者 |
山田 誠 函館工業高等専門学校, 生産システム工学科, 教授 (20210479)
中村 和之 函館工業高等専門学校, 一般人文系, 教授 (80342434)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 出土遺物 / 元素分析 / X線遮蔽 / 凹凸補正 |
研究実績の概要 |
波長分散型蛍光X線装置で元素組成分析を行うときには測定面が平滑であることが必要である。そのため、粉末化や研磨など可能な場合はそうした処理を行うが、遺物など非破壊が原則な場合には、この測定方法を適用するのが困難である。そこで、遺物の形状を3Dデジタイザーを用いて立体データ化してそこから平滑面を抽出し、その平滑面だけを露出させるアクリル樹脂製冶具(マスク)を作成した。その後そのアクリル樹脂製のマスク露出させる面以外は、銀や金などその遺物には含まれていない重金属を貼り付けることでX線を遮蔽した。この方法による遺物の元素濃度測定の有効性を確認することを目的とする中、今年度はまずは試行用の試料として、市場に流通しており文化財としての価値が消失している青銅製の寛永通宝でマスクを作成し、予備的な分析条件を決定した。その後利尻富士町で発掘された出土遺物のうち、青銅製の小鐸で成分分析を行った。 寛永通宝に関して、主成分は銅、鉛、スズであるが、この主成分濃度はエネルギー分散型の測定方法と今回のマスクを用いて限定された平滑面での測定結果はよく一致しており、一方、マスクを用いずそのまま波長分散型の装置で測定した場合には、それら3元素の濃度はかなり異なっていたことから、マスクの効果が確認できたといえる。そこで、利尻富士町の青銅製の小鐸について同様にマスクを作成して測定したところ、エネルギー分散型の測定結果とはやや異なる数値となった。この原因は、マスクされた以外の平滑面が小面積すぎるため、全体のS/N比が小さいことが原因であるので、実験条件を改善し、測定を繰り返してシグナルを積算するなどの工夫が必要であることが分かってきている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遺物の形状を3Dデータとして取り込み、そこから平滑面を見出してアクリル樹脂製のマスクを3Dプリンターで作成する方法を青銅貨では確立できた。しかし、より複雑で平滑部の面積が少ない出土遺物(小鐸)では元素濃度にばらつきがあった。これは、古銭には平滑面が比較的大きな割合で確保できるが小鐸ではこれが小さいためS/N比は低下したためである。この問題を解決するには、積算による測定が必要であるが、積算条件の確定に時間を要している。しかしながら、昨年度の成果としての平滑面が多い遺物や、曲面補正も可能なガラス玉などの結果は、学会での発表が可能な新規の知見であるので、「やや遅れている」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
遺物中に含まれるごく微量元素が、その遺物の原料鉱石の産地分析や加工方法の推定に有用な場合も多い。そこで、微量元素の定量性を向上させるため、マスクによる露出面積と装置の積算測定の方法の関係を把握し、最適条件を見出す。そのうえで、ガラス玉の発色を左右する微量金属イオンの高精度分析やより複雑な形状の遺物についてこの方法を適用する。その中で、青銅製品以外の鉄器など表面腐食により形状が平滑ではなくなってしまっているものについても利用できる方法になるように検討する。 また、最終年度であるので、学会発表や論文発表、さらには関連研究の研究者との意見交換など通して研究が今後も発展できるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
3Dプリンターの造形物製作用の材料の定価が下がったため。学会発表が今年度にずれ込んだためなどによる。また、マスクに用いる金箔の枚数が、実験条件検討のプロセスで当初予定のものよりも少なく済むことになったため。
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