研究課題/領域番号 |
16K01184
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研究機関 | 松江工業高等専門学校 |
研究代表者 |
久間 英樹 松江工業高等専門学校, 電子制御工学科, 教授 (40259924)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 遺跡調査 / 3次元レーザ測定 / 不整地対応ロボット |
研究実績の概要 |
本研究では3次元レーザスキャナ搭載可能な遠隔操作型ロボットを開発し全国各地の鉱山坑道内の調査を行った。具体的には、ロボットに取り付けられた各種センサにより坑道内部の映像や断面形状、採掘方向、傾斜角等の定量データを取得した。これら定量データと古文書等の記載を比較することによって時代毎の坑道形状の特徴を求めることが可能となった。更に、3次元レーザスキャナを用いて露天掘跡や坑道が散在する斜面の定量データを測定し採掘時の状況を再現する新たな手法を提案した。この手法を用いて兵庫県多田銀銅山において調査を行った。具体的には銅製錬の際に用いる鉛を産出していたと考えられて多田銀銅山肝川地区樋ノ上坑道群においてロボットで進入可能な8個の坑道の3次元レーザ測定を行った。その結果坑道内の測定体積の合計が約64立方メートルとなった。この値はこの付近にあるズリ(無価値の岩石)捨て場から推定した鉱石採掘量とほぼ一致した。また8個の坑道を含む約220m×約70mの斜面の測定を行った。この結果に上述した坑道測定の結果を重ね合わせることによって地中での坑道間の相互関係を表すことが可能となった。 次に山梨県湯之奥金山においても調査を行った。具体的には戦国時代の露天掘跡と江戸時代の坑道跡が散在する中山金山で行った。調査した坑道は1788年に記述された古文書に2段に採掘されたと記載されている坑道12である。調査の結果、1段目と2段目は上下に水平に採掘されており最小幅は約10㎝であることがわかった。また露頭掘跡に関しては約110m×約65m範囲の測定を行った。その中で最大の露天掘跡の採掘体積が397.2立方メートルであることがわかった。この値から金産出量を推定すると約4.8kgであること算出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、現場での探査をより円滑に進めるために坑道形状に対応したロボットを製作できないか検討した。具体的には駆動用DCモータを内輪と兼用したホイールで覆った構造を基本とする駆動ユニットの開発を行った。このユニットを複数個組み合わせることによって2輪型、8輪型等のロボットを製作した。これをベースに、坑道内でのロボットの操作性を向上させ確実かつ的確に作業を行うことを目的に、既に提案してある坑道形状の定量的な測定・評価および測定システムの実証試験を兵庫県多田銀銅山や山梨県湯之奥金山で実施した。また坑口周辺の3次元レーザ測定も実施した。これにより、従来は予測不可能であった坑道間の相互関係や鉱山全体でどれだけの鉱物が採掘されたか定量的に評価する新たな手法を提案した。 また採取した定量データから埋蔵文化財としての鉱山坑道跡の価値を再認識してもらうために、全国各地の鉱山跡で成果報告会を実施した。具体的には生野銀山内シルバー生野、石見銀山内世界遺産センター、多田銀銅山内悠久の館、湯之奥金山内湯之奥金山博物館で行った。その際、実際に使用した遠隔操作型ロボットの実演や操作体験も実施し、ロボットを用いた鉱山探査の重要性を認識してもらった。更に子供たちにものづくりの面白さを体験してもらうために、鉱山調査に関連したオリジナルロボット工作キッドを開発した。これを用いて出雲科学館や東北震災復興関連行事の一環として石巻市立中学等で工作教室を実施した。 これらの結果から当初計画した通りに遂行できていると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に得られた結果を基にして、日本有数の金山である佐渡金山や明治期の日本の鉱業発展の一翼を担った兵庫県生野銀山の調査を行う。更に、坑道を含めた鉱山関連遺構が採掘年代推定の指標として使用できないか検討する。具体的には、昨年度開発した測定システムを応用することで、坑道付近の地形、選鉱道具、鉱山臼等、鉱山関連遺構の定量データを現場で効率良く測定できるシステムを実現する。この結果を用いて鉱山稼働時の採掘状況や鉱山遺跡の文化的価値を定量的に評価手法も検討する。 また、これまでは3次元レーザスキャナを搭載したロボットを用いた測定の際には、ロボット本体を静止して測定していた。そのため水没坑道等ロボット本体が水に浮いた状態では測定が不可能であった。そのためロボットの振動を定量化して振動時でも測定可能なシステム実現を試みる。 更に、これらの3次元点群データを用いて例えば3次元プリンタで坑道壁面の実物大模型を製作して、各坑道間の違いを視覚的に表現することで坑道の採掘年代解明に利用できないか検討する。また坑道の大きさをリアルに表現するために、3次元点群データを利用して坑道内の様子を鳥が飛行しているように鳥の目線からの映像として再現できないか検討する。 本年度も昨年度と同様に埋蔵文化財としての鉱山遺跡の価値を再認識してもらうために、全国各地の鉱山跡で成果報告会やものづくり教室を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究で使用する3次元レーザスキャナの精度保証メンテナンス費用を計画段階では業者に確認して約35万円と見積もっていた。そのため科研費を利用して毎年メンテナンスを実施する計画としていた。しかし平成28年度になって突然業者から費用が約65万円になると連絡があった。そのため平成28年度の残金と平成29年度計上していたメンテナンス費用を利用して本年度精度保証メンテナンスを行うことにした。
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次年度使用額の使用計画 |
3次元レーザスキャナの精度保証メンテナンス費用に充てる。
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