災害時などの緊急時における一時保管場所として,また収蔵施設の拡充の手段として採用されている文化財収蔵を目的として建てられていない一般室(非文化財収蔵庫)を文化財収蔵施設として活用するにあたり,それらの施設においてより,低コスト・低エネルギーで文化財の収蔵に適した環境を維持し,施設を運用する方法が求められる。そこで本研究では,昨年度に引き続き,1) 現在文化財収蔵施設として活用されている宮城県内非文化財収蔵施設の環境調査を実施し,その傾向を集約した。また2) 非文化財収蔵施設の一室にスギ材を設置し,それによる室内環境の温湿度変動を設置木材量を変化させて調査した。 1)非文化財収蔵施設の運用においては,異なるタイプの一時保管施設について,温湿度に着目し,施設運営の現状と課題,対応策を検討した。継続的な調査・測定,運営方法の記録等により,施設ごとの保存環境や機器の特性を明らかにした。多くの非文化財収蔵施設では,文化財の収蔵のために十分な空調設備や構造を備えていない場合が多い。しかし,①施設の気密性と外気影響の把握,②温湿度調査に基づいた機器の使用,③施設運営方法の改善を積み重ねることにより,多様な施設においても,安定した資料収蔵環境を維持することが可能であると考えられた。 2)東北歴史博物館が所有する施設のうち,一般室を調査室とし,木材を設置し温湿度変動を調査した。調査室に設置する木材は調湿性能及び入手の容易さからスギ材を選択した。設置量は,スギ材(10×180×1cm)を60枚とした。調査の結果,木材設置により,室内の相対湿度安定性を得られるが,長期的な絶対湿度は隣接する外気環境によることがわかった。そのため文化財収蔵のための適湿性を満たすためには,それ以前に外部環境からの流入空気を抑制する等の対策が,木材設置による湿度環境改善の効率を上げるために必要であった。
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