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2017 年度 実施状況報告書

虎塚古墳壁画の材質と保存環境に関する研究

研究課題

研究課題/領域番号 16K01186
研究機関独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所

研究代表者

犬塚 将英  独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 室長 (00392548)

研究分担者 谷口 陽子  筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40392550)
佐藤 嘉則  独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存科学研究センター, 室長 (50466645)
矢島 國雄  明治大学, 文学部, 専任教授 (70130838)
研究期間 (年度) 2016-04-01 – 2019-03-31
キーワード虎塚古墳 / 落下物 / 試験片 / 結露 / 中田横穴
研究実績の概要

茨城県ひたちなか市の虎塚古墳では、近年、壁画の一部に劣化現象が進行している可能性が示唆されてきた。これまでの先行研究により、壁画の構造と材料に関する知見は得られたが、劣化のメカニズムについては十分に解明されているとは言えない。本研究の目的は、虎塚古墳壁画のより良い保存環境の設定を検討するために、壁画の劣化のメカニズムを明らかにすることである。
壁画の劣化現象を正しく理解するために、石室内の側壁近傍の床面にポリカーボネート製のシートを設置して、虎塚古墳一般公開が実施されるタイミングで落下物の採取を行った。これらの採取試料を顕微鏡で観察し、重量の測定を行った。また、これらの落下物が採取された箇所や季節変動についての検討も行い、史跡対策保存委員会にて報告を行った。
さらに、劣化のメカニズムを科学的に調べるために、虎塚古墳壁画を模した試験片の製作を行った。本年度は結露による影響を調べるために、高湿度条件下に試験片を設置してからペルチェ素子を用いて試験片を冷却することにより試験片表面に強制的に結露を発生させる実験を開始した。今後は様々な条件における実験を系統的に実施して、その成果をまとめて、学術的な論文にまとめる予定である。
虎塚古墳との比較のために、虎塚古墳と同じような気象条件におかれている茨城県水戸市近辺にある古墳の調査を実施した。
虎塚古墳壁画のような白色下地層にベンガラによる彩色が施されている装飾古墳の類例は全国でも極めて少ない中で、福島県いわき市にある中田横穴は虎塚古墳と類似した彩色を有する数少ない装飾古墳と言える。本年度は中田横穴の視察を実施して、温湿度計測、壁画の保存状態の調査、非接触な手法による壁面の温度と水分量の測定等を実施した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究では本年度も、虎塚古墳壁画の劣化のメカニズムを明らかにするために、1.壁画周辺の温湿度環境と壁画表面における水分の移動、2.壁画表面における微生物の存在と影響の有無との関連性、の2点に着眼して研究を進めてきた。
虎塚古墳では石室内の側壁近傍の床面にポリカーボネート製のシートを設置して、落下物の採取と調査を継続的に実施している。採取した試料中の微生物の有無を調べるための分析を行った。また、一般公開後点検時に回収される落下物の重量、採取箇所の分布、季節変動についての検討を行い、ひたちなか市史跡対策保存委員会にて報告を行った。
昨年度に引き続き、虎塚古墳壁画を模した試験片を製作し、劣化現象を再現するための試験を行った。昨年度は恒温恒湿槽を用いて温湿度制御を行い、強制劣化試験を実施したが、実際に起こっている劣化現象を再現するには至らなかった。ところで、虎塚古墳の石室内は年間を通じて相対湿度が約100%であることから、石室内の温度分布が生じると壁面での結露を引き起こしやすい。本年度は結露による影響を調べるために、高湿度条件下に試験片を設置してからペルチェ素子を用いて試験片を冷却することにより試験片表面に強制的に結露を発生させる実験系を構築し、当初の予定通りに実験を開始した。
虎塚古墳壁画のような白色下地層にベンガラによる彩色が施されている装飾古墳の類例は全国でも極めて少ない中で、福島県いわき市にある中田横穴は虎塚古墳と類似した彩色を有する数少ない装飾古墳と言える。本年度は中田横穴の視察を実施して、温湿度計測、壁画の保存状態の調査、非接触な手法による壁面の温度と水分量の測定等を実施することができた。

今後の研究の推進方策

平成29年度に構築した結露の影響を調べるための実験系を用いて、劣化のメカニズムを調べるためのさらに詳細な基礎実験を進めていく予定である。その際には、試験片の置き方や含水量を変化させて、目視観察・顕微鏡観察を行いながら、試験片の重量・含水量の変化・表面における水分の蒸散量の測定を実施し、試験片に生じる変化を調べる。これらの結果を学術的な論文としてまとめて成果発表を行う予定である。また、本実験を通じて引き続き、壁面水分量の自動計測システムの開発も同時に進めている予定である。
虎塚古墳石室内で採取している落下物に関しては、その重量と内容、採取箇所の分布、季節変動、微生物の有無等の解析を引き続き行い、データをさらに蓄積した上で、平成30年度のひたちなか市史跡対策保存委員会にて報告する予定である。
本研究の最終年度である平成30年度は、これまで行ってきた試験片を用いた基礎実験の結果、落下物の分析結果、茨城県水戸市近辺にある古墳の調査結果、福島県いわき市の中田横穴での調査結果を整理して、報告書を作成する。

次年度使用額が生じた理由

次年度使用額が生じた主な理由は有機物の分析を実施しなかったことにある。平成29年度も虎塚古墳石室内から採取された落下物の内容について詳細な顕微鏡観察を行ったが、その結果、有機物分析に供することのできる試料の採取が難しかったため本年度の有機物の分析を見送ることにした。平成30年度は微生物種の同定分析と併せて、分析手法の見直しを行い、適切な方法での分析を実施する予定である。

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公開日: 2018-12-17  

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