研究課題/領域番号 |
16K01187
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研究機関 | 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館 |
研究代表者 |
高嶋 美穂 独立行政法人国立美術館国立西洋美術館, 学芸課, 研究補佐員 (80443159)
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研究分担者 |
谷口 陽子 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (40392550)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ELISA / LC/MS / GC/MS / 膠着剤 / 膠 / コラーゲン / 卵 / 展色剤 |
研究実績の概要 |
1. 絵画レプリカサンプルの作成を終了した。カゼインを膠着剤とするサンプルの作成では古い技法書どおりに作成してもうまくいかずに、アンモニア水を使用した。 2. GC/MSによる油・樹脂・蜜蝋の分析について、標準サンプルや自作の絵画レプリカサンプルでの測定をして、データを集めた。また、PPチューブや注射器の使用が、パルミチン酸などがコンタミする原因になっていることがわかり使用を中止した。 3. LC/MSによる膠の動物種の同定法では、トリプシンを固定化したメンブレンやC18メンブレン用いる方法を試みた。この方法では、実資料にメンブレンを張り付けてコラーゲンを吸着させるのでサンプル採取の必要がない、メンブレンによって蛋白質が精製できる、トリプシン消化時間の短縮、といったメリットが見込める。レプリカサンプルを使った実験の結果、トリプシンを固定化したメンブレンでの分析は絵具層を傷めてしまうことがわかり、現在C18メンブレン法で各条件の最適化を図っている。また、コラーゲンの分析をLC/MSではなくLC-TOF/MSで行うことで感度の向上を図っている。 4. 実資料の分析:クフ王太陽の船(エジプト)から採取したモルタルなど(GC/MS)、ハツダ遺跡の石仏(アフガニスタン・3~5世紀)の彩色層(LC/MS、ELISA)、明治期の油彩画の地塗り(LC/MS、GC/MS)、石仏(中国・隋時代?)の彩色(LC/MS、GC/MS)、ルネサンス期の板絵(西洋美術館所蔵、イタリアおよびフランドル、LC/MS、GC/MS)の彩色層などの分析を行った。特に興味深い点は、ルネサンス期イタリア絵画の地塗りにおいて、ウマ由来の膠が検出された点である。一連の分析から動物種を同定するのに必要なサンプル量は約1mgであることがわかってきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
強制劣化させる絵画レプリカサンプルを作成するのに手間どってしまい、今年度中に終了するはずだった強制劣化が遅れていること、本年度はGC/MSやLC/MSでの分析が順調に進んだ一方で、ELISAの手法の改善がほとんどできなかったため「やや遅れている」という評価にした。
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今後の研究の推進方策 |
1.絵画レプリカサンプルの強制劣化(UV劣化)を開始する。 2.ELISA法においては、サンプル溶出液の組成および超音波、熱処理などの前処理条件を検討し、溶出液にサンプルが溶解する条件を見つける。対象サンプルとして、すでに6、7年自然劣化した自作絵具レプリカサンプルを使用する。溶出液にどの程度蛋白質が溶解したのかを、BCA法とアミノ酸分析機で蛋白質を定量することにより調べる。 3.1のサンプルおよび自然劣化サンプルを用いて、ELISA、LC/MSにおいて添加された顔料、経年が検出限界に与える影響と、検出不可能なパターンの明確化を行う。分析に必要なサンプル量を検討する。 4.メンブレンを用いるLC/MS(LC-TOF/MS)での分析法を確立する。 5.実資料の分析をする。できるだけ多くの実資料についてELISA、LC/MS、GC/MSで分析し、少ないサンプル量で確実に膠着剤を同定するためには、どのような場合にどの方法を用いるのが適切かを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)GC/MSの修理費、メンテナンス費、消耗品購入費用を、当該科学研究費からではなく職場で与えられている予算においてまかなうことが可能であったこと、絵画レプリカサンプルの作成を自分で行ったために人件費がかからなかったこと、レプリカサンプルの作成が遅れているために強制劣化を開始できず強制劣化の費用がかからなかったこと、英語論文作成の際に翻訳代がかからなかったことなどによる。(使用計画)1.抗体の購入費や、脂肪酸分析に必要な試薬の購入費、2.GC/MSのメンテナンス、故障対応、消耗品購入の費用、3.絵画レプリカサンプルの強制劣化のための費用、4.アミノ酸分析を依頼するための費用、5.実資料の入手と膠着剤の分析に関する意見交換をするための国内外の出張費、6.論文作成のための翻訳、校閲のための費用、として使用する予定である。
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