研究課題/領域番号 |
16K01189
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研究機関 | 公益財団法人元興寺文化財研究所 |
研究代表者 |
山田 卓司 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (30435903)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超微細気泡 / ウルトラファインバブル / ファインバブル / ナノバブル / マイクロバブル / 洗浄 / 文化財 |
研究実績の概要 |
文化財の保存処理で水道水内のカルシウムや塩素による問題で水の純度を注目することはあったが、水に含む気体(気泡)は注目されていない。近年、気泡は微細(マイクロバブル・ファインバブル:FB)から超微細(ナノバブル・ウルトラファインバブル:UFB)に発展し、通常の気泡と全く異なるユニークな性質を示している。このFBやUFBを含む水に注目し、文化財の保存処理への適用する研究を行った。本年度は洗浄において、FB・UFB水による除去効率の改善について検討した。昨年度の予備実験や情報収集を通して、種々のFB・UFB発生原理の中から最適な方法を検討し、発生装置の開発を共同で行った。その結果、開発された文化財の洗浄へ特化したFB・UFB発生装置を用いて、石仏やモザイク壁画、文書を対象文化財として洗浄試験を行った。特に、ラボレベルから現場レベルへスケールアップを実施し、文化財修復現場での実作業への適応を試みた。修復現場では、UFBを含む水と含まない水を用いたブラインドテストを実施し、UFB水による洗浄効率の改善を作業現場で評価することに成功した。また、ラボレベルでは電子顕微鏡による洗浄残渣の観察により、FB・UFB水による文化財表面への影響に対して評価を行った。 現在、顕微鏡以外の表面観察へ向けた科学的機器の活用や、洗浄効率の定量的な評価に向けた標準試験方法の確立に向けた実験を計画している。なお、修復現場での実使用に基づくUFB発生装置改良に向けた適用事例を蓄積中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
微細気泡(FB)及び超微細気泡(UFB)の科学的な機構解明にあたり、ナノレベルの分析手法のこの1,2年における大きな進展・改良に伴い最適な分析方法確立に至っていない。 一方、発生装置の共同開発を実施できたことにより、文化財洗浄に特化したFB・UFB発生装置の開発が可能となった。その結果、市販の装置で実現できなかった異なる電荷をもつUFBを作成することができ、洗浄試験対象の適用条件が拡大した。また、ブラインドテストを行うことで、ラボレベルでなく現場作業での評価が可能となり、FBやUFBを用いた洗浄の実展開に向けた試験が可能となった。 目標としていた装置の導入し、実作業への展開を達成できたことから、おおむね順調に進展しているとした。
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今後の研究の推進方策 |
微細気泡(FB)及び超微細気泡(UFB)の発生装置に関わる知見をさらに蓄積し、文化財洗浄における発生装置の改良を行う。装置の改良にあたり、FB・UFB発生装置の研究を行う研究者や学会と共同に、装置の改良を視野に入れた研究推進を計画する。UFBの長期安定性を評価するため、作成後保管したUFB水の分析を行う予定である。また、UFBを用いることで文化財へ与える影響を分光装置等を用いて評価する。 文化財の洗浄だけでなく、保管水や脱塩水といった分野への適用を目指し、UFB発生装置の最適化を行っていく。特に、適用事例の蓄積に関して幅広く募集を行い、問題点を明らかにし、逐次改善していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
微細気泡(FB)及び極微細気泡(UFB)発生装置を共同開発することで、市販の発生装置を購入するより物品費が想定より減少した。UFBの発生確認に対する分析委託費が軽減されたことにより、その他の費用が減少した。それらの費用は、科学的な分析手法の再検討により想定以上に費用を必要とする分析を実施しなければならない可能性が高く、次年度へ繰り越した。さらに、次年度は発生装置メンテナンスや改良に費用が必要になることや、適用事例を拡大するために現地への旅費へ使用することを計画している。
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