研究課題/領域番号 |
16K01190
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館 |
研究代表者 |
降幡 順子 独立行政法人国立文化財機構京都国立博物館, 学芸部保存科学室, 室長 (60372182)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 奈良三彩 / 鉛釉陶器 / 胎土分析 / 鉄 / 価数 / 施釉瓦 / 緑釉陶器 |
研究実績の概要 |
本研究で着目する「白色・軟質」胎土の焼成技術は、初現期の奈良三彩からすでに認められるものの、当時の土師器や須恵器、さらに中国における唐三彩の焼成技術とは異なっている。そこで白色軟質胎土の焼成技術の特徴と系譜について究明することを目的とする。 7世紀後半から8世紀初頭の最も古い国産鉛釉陶器は、単彩釉・赤褐色・軟質胎土であり、その後、多彩釉・白色・軟質胎土の奈良三彩、さらに単彩釉・青灰色・硬質胎土が主流の平安緑釉へと、釉薬・胎土の色調などは変化しながら、生産は11世紀後半頃まで継続してゆく。焼成技術は工人集団の違いを反映しやすく、当時の技術史的な流れを解明する上で、基礎的かつ重要な情報を得ることにつながると考えている。 平成29年度の調査は、主に平城京にある寺院跡から出土した8世紀の奈良三彩、緑釉陶器、施釉瓦および須恵器について、蛍光X線分析による胎土・釉薬の化学組成の調査を実施し、高輝度光科学研究センター(SPring-8)において非破壊にてFe吸収端のスペクトルを測定した。さらに、昨年度の調査結果から、胎土の焼成温度と埋蔵環境に関連がある可能性が考えられたので、参照試料として粘土ブロックを成形し、焼成温度を800℃から1200℃まで変化させたものを制作し、それらを埋蔵環境からの影響が大きいと考えた鉄分の多い湧水のある場所に含浸した試料を準備した。 これらの測定から、Fe吸収端のスペクトルシフトが顕著にみられる胎土資料がある一方、スペクトルシフトが明確ではない資料群が存在した。これらの資料は比較的軟質胎土のものが多い結果となったため、この原因のひとつとして埋蔵環境からの鉄の影響があるのではないかと考え、参照試料について同様の測定を実施した。現状では明確な傾向を掴むことはできていないが、今後は含浸期間や含浸手法をさらに検討して継続的に調査する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、人事異動があったため研究環境が大きく変わり、新しい装置を分析可能な状態にするまでに時間を要するなど、予定よりも研究開始時期が遅れ気味となってしまったといえる。しかし高輝度光科学研究センター(SPring-8)における非破壊分析は予定通り実施でき、また化学組成の分析調査についても、計画していた8世紀の奈良三彩、緑釉陶器、施釉瓦、須恵器、7世紀の土師器などの分析調査はほぼ完了するなど遅れを取り戻しつつある。 また施釉瓦のデータ蓄積が昨年度から進み、今年度は奈良三彩と平城京寺院跡出土の施釉瓦の比較検討を実施し、施釉陶器・瓦研究会にて「平城京寺院跡出土の施釉陶器・瓦磚の分析」として報告した。これらの結果からおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究では、軟質・白色胎土の鉛釉陶器の焼成技術に関する分析調査を継続的に実施し資料数を増やしていくとともに、これまでに得られた鉄の価数に関するXAFS分析から得られた情報をもとに、鉄酸化物以外の可能性を考慮した実験をおこなっていく。 また今年度に引き続き、粘土ブロック参照試料を測定するために、含浸期間や手法をさらに検討していく予定である。さらに、平城京以外の地域から出土する資料群についても検討を始めていきたいと考えている。
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