研究実績の概要 |
平成30年度は,平成29年度から引き続き深度10mの観測孔を用いて地下水調査を実施した。現地では,地下水位,pH, 電気伝導率,水温,原位置における溶存酸素濃度の計測を行った。そして,現地観測孔の1well volume以上排水後,地下水を採取した。採取した地下水試料は研究室において水質分析に供した。平成30年度における地下水調査の結果,前年までは分析した値が定量下限値以下であった酢酸イオンが高濃度で存在する時期があった。ただし,酢酸イオンが高濃度で地下水中に存在する時期と酢酸イオンが生成される元になると想定される溶存有機物濃度との間に明瞭な関係は認められなかった。また,地下水の溶存酸素濃度について調査期間中1回だけ0.1mg/L以上の値を示した。地下水の硫化物イオンは調査期間中一度も検出されなかった。 さらに,平成30年度は採取した地下水試料の加熱比較実験を実施した。比較は,4℃の冷蔵環境と20℃の環境で実施した。1回目の加熱比較実験では大気とは非接触で試料を採取したが,採取容器に大気の混入という不具合が発生したため地下水の水質組成に差異が認められなかった。2回目の加熱比較実験では問題はなく実験が実施でき,顕著な差異が認められた。実験開始23日後の20℃環境における試料では,4℃環境における試料では認められなかったチオ硫酸イオンが検出された。この結果,20℃の環境条件下においては地下水中において硫酸還元反応が進行することが示された。 これまでの3年間における研究成果をまとめると,1点目は地下水中における有機酸イオンの自然環境下での変動が大きいことを明らかにした。2点目は自然環境下より高温の温度条件下で地下水の加熱実験を行い硫酸還元反応が生じるのかどうか評価した結果,これまで指摘されていない20℃環境下においても硫酸還元反応が生じ得ることを明らかにしたことである。
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