最終年度の研究では,本研究対象地域の福島県北部沿岸域の中で,新地町,相馬市,南相馬市において継続的に観測を行っている地点の調査を実施した。これらは,2011年の3月11日の地震の際に津波被害を受けた沿岸付近の地下水や湧水で,時間経過に伴う水質変化の把握を目的として行っている。調査の結果,津波による海水混入の影響,或いは津波の際に土壌中に吸着した塩類の溶出の影響(Na-Cl型やNa-(Cl+SO4)型の水質組成を示し,ECが高い)が残っている地点が認められたが,震災からの経過時間と共に地下水等の溶存成分濃度は減少し,津波浸水の影響は少なくなっていることを把握できた。一方で,震災後に示していた水質組成が変化し,津波による影響が殆ど見られなくなった地点も確認でき,場所によって地形や地質などの影響により水質変化の程度に差異があることが明らかとなった。その他に,復興事業に伴う土地改良や山地の土砂掘削などに起因する水質変化の有無を把握すること,および地下水等の涵養域を推定するためのデータの蓄積を目的として,内陸部と山間部の地下水や湧水の継続調査も実施している。現時点においては,内陸部や山間部の水質や同位体比には顕著な変化は認められていないが,復興事業の進行に伴い,地下水流動などに変化が生じる可能性もあるため,今後も定期的な調査を継続する予定である。 これまでの調査・研究で得られた成果について2019年5月の学会(JpGU)で発表した。また,南相馬市の沿岸域の津波被害を受けた湧水の水質変化に関する論文を作成し,学会誌に掲載された。沿岸域の水質・同位体・涵養標高についての論文は学会誌に投稿し,現在,査読修正中である。他に,地下水等の滞留時間の推定結果,および地下水流動についての論文を作成中であり,2020年度中に学会誌に投稿する予定である。
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