GISソフトウェアを用いた地形解析に関しては,航空レーザ測量に基づく数値標高モデルを用いて,谷の縦断,横断方向それぞれの形状を定量的に分析する手法を築き,過去の氷河拡大範囲を特定することに(詳細については議論の余地があるが)概ね成功した。その方法で,飛騨山脈の剱沢流域に復元した氷河分布から,最終氷期の氷河最拡大期の平衡線は標高2350m付近にあったと推定できた。本研究が復元した氷河分布は,1960~70年代に提案され90年代まで定説となっていた氷河(地形)分布よりはるかに狭く,推定した平衡線もより高い位置にあった。その結果は,最終氷期の本州中部は,寒冷なだけでなく現在よりも乾燥した環境にあったことを示しており,先行研究の氷河分布よりも他の古環境指標との整合性も高いものであった。 永久凍土分布に関する研究では,まず前年度(H29年度)に富士山西面に設置した地温測器からデータを回収することができた。データを得られたのが1年間分のみであり,地温の年々変動について今後検討していく必要があるが,西向き斜面における永久凍土帯の下限がおおよそ3500m付近にあると推定できた。残念なことに以前から観測を継続していた山頂部では,冬の異常降雪と夏の落雷によって測器が破損しており,斜面方位の差による地温差は,直接比較することができなかった。ただし,研究課題終了後も引きつづき観測は継続する予定であり,富士山全体の永久凍土分布をデータに基づき議論できる目処はついた。また前年度までに,日本アルプスの地温観測結果も得ており,空間的に比較可能なデータが揃ってきた。 本研究では,現在の地温観測値を基準に過去の永久凍土分布も見積もることを目指していたが,それに関しては十分に解析できなかった。ただ,現況を把握することで,今後の温暖化への応答がどのようになるか見込みを得られるなど,一定の成果は得られた。
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