研究実績の概要 |
調査についてはミズナラ,コナラを対象として,①開芽フェノロジーの把握,②豊凶モニタリングおよびその関連調査を実施した。①については,中部日本の20地点にインターバルカメラを設置して,開芽フェノロジーを観測した。②については,福井県内の継続調査プロットにおいて,対象樹種の食害や着果の状況などを夏期および秋期に調査した。また中部日本地域を対象として,県ごとの豊凶モニタリング調査の状況,クマ有害捕獲状況などを整理した。 解析については,前年度の解析で気象要因と豊凶の関係性が示唆されたミズナラに着目して,その広域的な凶作をもたらす気象イベントを探索し,広域的な凶作を推定するモデルを構築した(生態学会講演)。福井県で実施している樹木個体レベルの豊凶モニタリングデータを用いて,豊凶に影響を及ぼす気象要因から個体レベルの豊凶傾向(豊作,並作,不作の3段階)を予測する回帰木モデルを構築した。その結果,①前年7月の日照時間,②その年の最後に0度以下になった日および③8月の日照時間の3つの気象値から,3段階の豊凶傾向を72%の正答率で分類できる回帰木モデルを構築した。中部日本地域では2004年以降,4回のクマ大量出没が発生した。回帰木モデルを広域に適用したところ,4回のうち3回(2004年, 2006年, 2010年)の大量出没年には,ほぼ全域でミズナラが不作と分類された。しかしクマ大量出没年のうち2014年には,大部分のメッシュが不作と分類されたものの,2割のメッシュは豊作と分類された。この誤分類の原因としては回帰木モデルの精度不足のほか,気象要因以外の要因(マイマイガの大発生)がミズナラの作柄に影響を及ぼした可能性が考えられる。このモデルでは豊凶モニタリングよりも早い段階で,ミズナラの広域的な凶作傾向の発生を予測できることから,クマ出没対策実務の高度化への寄与が期待される。
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