シベリアの冷帯気候における積雪ーアルベドフィードバック効果を明らかにする目的のために昨年度実施した、積雪アルベドを下げた場合と通常の場合の気候モデル実験に関するデータ解析を継続して実施した。積雪アルベドを下げた場合の実験では、積雪アルベドを通常の場合の設定より極端に小さくし、積雪によって反射される短波放射量を抑制した場合の気候を計算した。昨年度報告したように、通常の場合に比べて積雪アルベドを下げた場合の実験で、ユーラシア北部の陸域での気温上昇量が大きかったのは春季であった。春季、短波放射量の増加に伴い、積雪アルベドを下げた場合の実験では通常の場合に比べて融雪量が早期に増し積雪域の縮退が早く進む。シベリア域の地表面熱収支において、3月は、顕熱が潜熱に比べると増加し、4-5月になると融雪量の早期増加により潜熱(蒸発量)が顕著に増加する。つまり春季の後半になると積雪アルベドの低下によって増加した地表面エネルギーは融雪と蒸発に使われる。また、4-5月の蒸発量の増加に関連してユーラシア北部では雲量増加が生じ、これにより地表面に入射する短波放射量が抑制された。この抑制される量は、雲がない場合に増加する量と比べておおよそ30-40%であり、比較的大きい。このことは積雪アルベドの低下による放射過程を通じた気温上昇への正のフィードバック効果は、水循環を通した雲の効果によって負のフィードバックが生じ、積雪―アルベドフィードバックが抑制されていることを意味し、積雪ーアルベドフィードバック効果の理解において雲や水循環の重要性を強調する。 以上の結果について、極域科学シンポジウムで成果発表した。また、論文化を進め原稿を完成させた。
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