研究課題/領域番号 |
16K01234
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
牧本 直樹 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 教授 (90242263)
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研究分担者 |
小林 武 名古屋商科大学, 経済学部, 教授 (70751486)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ファクターモデル / 金利期間構造 / レジームスイッチ / 投資戦略 |
研究実績の概要 |
今年度は,H28年度に実施した研究の発展として,(1)ファクターモデルを利用した株式ポートフォリオ最適化への自己資金制約の導入,(2)金利期間構造に対するNelson-Siegel(NS)モデルのレジーム変数の拡張を行い,加えて(3)社債スプレッドの期間構造へのNSモデルの適用を行った. (1)では,H28年度のファクターポートフォリオ最適化の枠組にリバランス前後で資産総額を一致させる制約を加えて拡張した.線形リバランス戦略では将来のポートフォリオが確率的に変動するため,厳密にこの制約を満たすことはできないが,資産総額のずれが閾値を超える確率を一定値以下に抑える確率的制約を導入し,その制約下で最適化計算を行うアルゴリズムを開発した.また実際の金融市場データから推定したパラメータを用いた実験を行い,既存の手法に比べてより高い投資パフォーマンスが得られることを確認した. (2)では,NSファクターモデルに含まれるパラメータのうち,レジームシフトするパラメータを1種類から複数に拡張して推定方法を改善した.これにより,例えば金利が上昇しかつボラティリティが高まる,といったより複雑な金利変動を表現できるようになる.これに合わせて債券投資の最適戦略も複数パラメータのレジームシフトに対応できるよう拡張し,厳密な目的関数を導出した.さらに米国の金利データを利用した実証分析を行い,こうした拡張により投資パフォーマンスが改善することを確認した. (3)では,次年度の社債スプレッドの研究に先駆けた分析として,一部の企業の社債スプレッドの期間構造を3ファクターモデルで推定した.国債に比べて社債は経済環境の影響を受けやすいため,レジーム確率の推定に主要なマクロ経済変数を外生変数とするロジットモデルを採用した.推定の結果,マクロ変数の導入によってスプレッドの推定精度が改善されることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レジームシフトに応じてパラメータが変化するファクターモデルを利用した株式ポートフォリオの最適化に関しては,リバランス時の自己資金制約を含む最適化が可能となった.また,実データを利用した検証でも既存手法に比べて優位なパフォーマンスを示すことが確認されている.これによりスタイルローテーションを考慮した実務的にも適用可能な最適投資戦略の枠組がほぼ構築できたことになり,当初予定していた研究計画は概ね達成されたものと考えている. 金利期間構造に対するファクターモデルの推定と債券投資戦略については,すべてのパラメータがレジームシフトする柔軟性の高いNSモデルの安定的な推定が可能となり,また投資戦略についても,取引コストを考慮した1期間の平均-分散(もしくは標準偏差)最適化の理論構築と実データによるパフォーマンスの検証が完了したことから,想定通りの進捗と判断される. 社債スプレッドの期間構造モデルについては,発行社債数が多い企業に対するパラメータ推定を行い,NSファクターモデルにマクロ変数を加えたモデルが社債スプレッドの経時的な変化を十分に記述できることを確認した.これにより次年度に社債スプレッドを詳細に分析する準備が整ったものと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
金利期間構造に対するファクターモデルに関しては,今年度行った債券投資戦略の1期間最適化の結果をふまえて,多期間最適化への拡張について検討する予定である.多期間最適化の場合,将来の債券ポートフォリオは不確実性を伴うため,空売制約や予算制約などを満たすことが難しいという問題が発生するため,今年度までで行った株式ポートフォリオ最適化の手法を援用することを検討する. 社債スプレッドに対するファクターモデルについては,購入したデータベースを利用して分析対象となる企業の範囲を広げて分析を行う計画である.また,現在は企業ごとに個別のファクターモデルを推定しているが,社債スプレッドは経済環境に応じた共通要因にも左右されると考えられることから,共通要因と企業個別の要因を階層的にとらえることができるモデルと推定手法の開発を検討する.その際には,今年度実施したマクロ経済変数 を含むNSモデルの分析が手がかりになると考えている.その上で,社債ポートフォリオの最適化についても研究する予定である.社債スプレッドの動学モデルは金利期間構造よりも関連するファクターが多く複雑になるため,最適化問題の定式化,特に目的関数を明示的に計算することが困難になる可能性がある.また空売制約なども課す必要があるため解決すべき課題は少なくないが,社債ポートフォリオの最適化に関する研究はその重要性にも関わらず例が少ないため,社債ポートフォリオ選択に関する統一的な枠組が構築できれば有用性は高いと考えられる.
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次年度使用額が生じた理由 |
複数の社債スプレッドに対する階層的なモデル推定のためのソフトウエアをH29年度に導入予定であったが,具体的なモデルが確定した段階で機能的に最も適したソフトウエアを選定することが望ましいため,導入時期をH30年度に変更した.現在は複数のソフトウエアの機能や計算速度などの比較検討を行っている.
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