本年度は債券の期間構造に対する4ファクターモデルの適用とそれに基づく投資戦略に関する研究を実施した.期間構造はレベル,傾き,曲率の3ファクターで表現されることが多いが,加えてボラティリティが時間的に確率変動するLSCVモデルを用いて,本邦国債市場データに対する推定を行った.その結果,ボラティリティファクターを追加することによるデータへの適合や,予測における精度の向上が確認できた.債券投資戦略では,LSCVモデルを含む4種類の予測モデルと6種類の最適化モデルの組み合わせに対して投資パフォーマンスの評価を行い,時期による差異はあるものの,LSCVモデルが安定的に良好なパフォーマンスを示すことを検証した.また,期間構造の形状変化の様相に応じて金融市場を4つのタイプに分類し,タイプごとに適した投資戦略を明らかにした.ボラティリティは金融市場においてリスクの大きさを示す指標と考えられることから,ボラティリティの動学的変動を導入することで,短期から中期のリスクの増減を適切に記述できる可能性が示唆される. 研究全体を通しては,株式や債券それぞれで時系列的な変動を集約したファクターを見出したことが1つの貢献と考えている.またこれらのファクターの変動の仕方は時期によって異なるが,レジームシフトモデルやLSCVのような確率微分方程式モデルを利用することで,柔軟に記述可能であることも確認できた.さらに,こうしたファクター変動の動学モデルを予測に用いることで,投資最適化において良好な投資パフォーマンスが得られることをさまざまな金融市場データに対して検証した.
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