研究課題/領域番号 |
16K01251
|
研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
円谷 友英 兵庫県立大学, 応用情報科学研究科, 准教授 (10346702)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | グループ意思決定 / 匿名化 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,プライバシー保護に配慮して組織間データ共有を促すことで,各組織に属するデータ提供者に有益な情報をフードバックすることである.これに,(1)プライバシー保護と(2)個人へのフィードバックの2つの要素研究でアプローチする.当該年度の前半は,(1)について,プライバシーへの配慮が求められるパーソナルデータに関する情報収集を行い,利活用のトレンドを把握した.インターネット上でのプライバシーに詳しい社会科学や法律学を専門とする研究者にも助言を仰いだ.法律やルールに基づいた定義はあるもの,個人個人で認識が異なるため,一律に扱うことができない.従前は,データ分析の目的に即した組織間データ共有のあり方を検討していたが,問題によっては,データ提供者の価値観にも配慮が必要であることが明らかになった.後半は,効率性評価を題材にして,取り組んだ.(2)について,2つ以上の組織がもつデータを活用することで,評価対象をより公平な立場で評価することができ,また,評価対象の納得性も確保しやすい.互いの組織で生データやそれらが推測できるデータをやりとりせずに,評価対象の相対的効率値を求めるため,区間DEA(包絡分析法)をベースにしたモデルを提案した.計算量は多少増加するが,自組織と他組織の両方を考慮できるメリットを示した.実際の問題に適用するにはいたっていないが,明示的例を用いた成果を学会で発表した.提案モデルを用いれば,通常は開示しにくいデータも効率性評価の観点からは,必要な秘匿性を担保して共有することができる.組織を個人に置き換えて考えれば,個人が自分以外の者のデータを有効に取り込むことで,俯瞰的な自己評価を行なうことができ,ここに本研究の新たな意義があるといえる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を構成する2つの要素研究それぞれに関して述べる.(1)プライバシー保護に関しては,昨年度から引き続き,クラスタリングを介した匿名化を精査するとともに,効率性評価に焦点をあてた方法を開発して,明示的なデータでその有効性を示すことができ,同時に,情報量の低減に関する示唆を行なった.しかし,これは一律的なデータ変換の手法であり,データ提供者ごとの価値観を加味した配慮はできておらず,提案手法には再検討の必要があることがわかり,これは今後の課題である.(2)個人へのフィードバックについては,効率性評価に限定的ではあるが,具体例を示すことができた.また,組織を個人と捉えた場合については,従来から取り組んでいるグループAHPの研究成果を発展させることで,自身が与えたデータに,他者からのデータを反映して,必要な情報を導くモデルを提案した.他者にデータ提供するにあたって,プライバシーの観点からデータ変換を行なうが,この方法はまだ検討・改良の余地があると考えている.
|
今後の研究の推進方策 |
初年度は,グループ区間AHPを用いた個人へのフィードバックに関する理論面での展開を中心とし,2年目は,自ら収集した小規模なデータを用いて,初年度の成果を発表するとともに,公開されているデータを用いて,組織間データの利活用が必要とされる場面を想定して,効率性評価に特化して検討した.2年間は,データの匿名化に関して,一律に処理を施す手法を開発してきた.その中で,同様のデータであっても組織ごとにその取り扱い指針が異なる場合があり,情報量低減の視点からは,組織横断的に画一的な匿名化が必ずしも最適ではないことが判明した.最終年度は,こういった匿名化のカスタマイズを新たな課題として加え,引き続き,効率性評価の視点から検討する.組織を個人に置き換えて,各個人が主体となり,個人間の(パーソナル)データの相互利用を考える場合への汎用性を模索する.また,最終年度は,論文投稿を積極的に検討する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
申請時には予定していなかった長期海外出張(8ヶ月)が急遽入り,環境適応に時間を要し,データ収集作業ができず研究の推進や論文投稿に多少の遅れが生じてしまったため.次年度は,データ収集に着手し,解析ソフトウェアや機器も購入予定である.また,成果は,国際論文誌への投稿を予定しているので,掲載費に加えて,英文校正などにも費用が必要となる.
|