最終年度の成果: 離散的なモデルは2進格子などの特定なスケール空間の構造を仮定した。言うまでもなくそれは仮構のものである。そこで、スケールの階層構造に依らない連続的モデルを考えた。前年度までの研究で構築した離散過程モデルを確率微分方程式により連続的な確率過程として定式化した。そこでは、離散モデルにおいて、付加的なノイズ項を導入する拡張を行ったのと同様に、独立なブラウン運動を二つ導入した。モデルに含まれるパラメータは、実際の株価時系列から推定可能である。2008年の株式市場の大暴落前後2年間の株価時系列(ロンドン証券取引所に上場されているFTSE100構成銘柄の平均的な動きを表すマーケット・モード)を用いて検証を行った。提案した確率微分方程式と同値なフォッカー・プランク方程式を導き、数値計算を行った。高い精度で実証研究の結果を再現した。研究成果は国内外の研究集会で発表した。また専門雑誌に現在投稿中である。 研究機関全体の成果: 金融市場において、異なる時間スケールで計測したボラティリティの階層構造に関して、大きな時間スケールから小さい時間スケールへのボラティリティ・カスケードという観点からの研究を行った。成果は、(1)W-cascadeと呼ばれる離散的ランダムカスケードモデルに対して、実証研究の結果とより整合的な拡張を行ったこと、(2)拡張した離散過程を確率微分方程式により連続的な確率過程として定式化し、実証研究の結果を再現する結果を得たこと、(3) 市場外からの外生的ショックを取り込んだマルチフラクタル・ランダムウォーク過程を提案し、実証研究との整合性を確認したことである。
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