研究課題/領域番号 |
16K01284
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
岩崎 篤 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (70361516)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 構造信頼性 / リスク評価 / ベイズ統計 / 破損確率 / 構造ヘルスモニタリング / 損傷評価 |
研究実績の概要 |
本研究は構造ヘルスモニタリングシステムのCBM手法としての実用化のため、逆問題解析等での損傷評価において、損傷寸法等の構造状態では無く、破損確率を定量的に算出する手法の確立を目的とし研究を実施している。 平成28年度は(1-1)ベイズ推定を用いた真の損傷寸法の発生確率推定および破損確率評価法の検討、(1-2)破損確率を低減する損傷同定手法の検討、(2)RBMへの適用試行の検討を行った。 (1-1)としては、汎用の統計データ解析言語であるR上に提案するベイズ推定を用いた破損確率定量評価法の実装を行った。また、電気抵抗変化法による複合材料平板の層間はく離同定へと適用し、提案手法および構築したシステムにより、破損確率が評価可能であることの確認を行った。結果、外力より想定される破損開始寸法近傍をより下側の評価結果を得た場合から破損確率が上昇し、損傷寸法の増大に伴い増加、飽和することが確認され、本手法により有効に破損確率が評価可能であることが確認された。 (1-2)は、提案手法による破損確率評価の損傷評価法へのフィードバックをおこなう物である。適用対象では、全損傷寸法領域の評価精度を均等に向上させるのでは無く、上記の破損開始寸法近傍の損傷評価精度を重点的に上昇させることで、全体のリスクが低減することが確認された。 (2)は実用化のための検討で有り、本年はリスクを経済リスク・安全リスク二つに分割し、同一の安全リスク下において、経済リスクを低減する手法の検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に示したよう、本研究は(1)常時計測に基づく許容外損傷を安全な損傷と推定する確率の評価およびそれに基づく破損確率評価法の構築、(2)破損確率評価を用いたリスクベース保全計画の検討(3)破損確率を低減する損傷評価手法の検討、以上3つの課題について検討を行っている。 平成28年度は(1)を重点的に行い、システム構築および実験的な損傷同定問題への適用から提案手法および構築したシステムの有効性検討を行った。システムはR言語にて構築し、(i)逆問題解析による損傷評価(ii)ベイズ推定による真の損傷寸法発生率の推定(iii)残留強度分布の推定(iv)限界状態関数法による破損確率評価を行うアルゴリズムの構築を実施した。なお、破損モードは座屈損傷を想定し、作用外力としては15mmの層間剥離が生じた場合に50%の確率で(下側1%で14.5mm)で破損するよう定義した。結果、評価誤差もあることから9mm程度の寸法から破損確率が上昇し、15mm程度で急上昇、17mm近傍でほぼ100%に飽和することが確認された。結果提案手法による破損確率評価が有効に機能することが確認できている。また多くの損傷評価法では、損傷が小さい場合から非常に大きい場合までの全領域で評価誤差を低減することが主眼となっているが、(3)の検討に適用した結果、破損確率を低減するには、全領域では無く、特定の領域の高精度化が重要であることが確認された。 なお (3)に関しても(1)で構築したシステムを活用した検討を開始しており、ケーススタディから評価法が有効に機能し、それぞれの検討へ進行可能であることが確認できている。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況に示したよう提案手法のR言語上への実装は完了したが、複数人での研究の遂行および完成後の活用のための汎用化が必要で有り、今後もシステムの改善を継続予定である。また、実装の完了により、様々なケースへの提案手法の適用が可能となり、今後は破損確率を低減する評価手法の検討を重点的に実施する予定である。同じく進捗状況に示したよう破損発生確率を低減するには、特定の範囲の損傷寸法での評価寸法を低減することが重要と考えられ、作用外力の統計パラメータと損傷評価精度、重点評価するべき損傷寸法範囲の関係について検討を予定している。また、そもそもどの程度の大きさの損傷が発生しやすいかも大きく影響すると考えられ、さまざまなケースでの損傷評価手法の最適化の実施も予定している。 また、現時点損傷評価手法には重回帰分析を用いた逆問題解析を適用しているが、提案する破損確率表か手法およびリスク評価手法は損傷評価手法を限定する物では無く、近年ビッグデータ解析等で有効性が示されているディープラーニング(深層学習)の適用なども含め、さまざまな損傷評価手法への拡張を予定している。 適用対象としては、実験的な複合材料平板の層間はく離同定を対象としているが、FEMを用いたより複雑なケースへの適用、全く異なる問題への適用なども実施し、本手法の汎用性を確認することも予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
若干の差が生じているが、主としては利用する予定の有限要素解析ソフトの年間ライセンス費用が縮小された事に起因している。複数のライセンスがセットでのレンタルだが、複数の教員でシェアすることで費用の縮小が可能となり、申請予算からの削減により計画の進行が遅れることが懸念された問題が解消可能になったと考えている。
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次年度使用額の使用計画 |
評価手法の実装が完了したことで、リスクを低減するための損傷評価手法の最適化が可能となるが、繰り返し計算が必要であり、実施には多くの計算コストを必要とする。計算機および計算機関連の消耗品を若干増強することで、より迅速な研究遂行が可能になると考えている。
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