研究課題/領域番号 |
16K01291
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研究機関 | 名城大学 |
研究代表者 |
高橋 友一 名城大学, 理工学部, 教授 (80278259)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | シミュレーション工学 / 社会シミュレーションの妥当性評価 / 避難シミュレーション / エージェント / 人工知能 |
研究実績の概要 |
人間活動に関わる社会システムシミュレーションは,状況に応じた個人の振る舞いやグループ・社会的環境での情報交換なども構成要素となる.これにより,今後発生が予想される状況での群衆行動をシミュレーションできる利点がある.一方で,想定される状況に対応する過去の事例が少ない事,参加する人間に危害を与えない条件で実施される訓練・実験では実証が困難な為に,シミュレーション結果と実データの比較が困難である.そのモデル化の検証やシミュレーション結果の妥当性が大切になる. 今まで,非常時における避難指示よる建物からの避難行動を例にとり,以下の3つの観点で研究を行ってきた.(1)誘導指示情報の処理モデル:館内放送などで一斉に情報を受け取る,家族・職場関係で情報交換する,掲示されている非常口のサインなどによる行動の変化モデルを用意する.(2) 避難情報と環境モデル:非常時に起きる状況の変化に対する行動モデルを用意する.(3) 役割に応じたエージェントモデル:過去の事例をもとにエージェントの役割に応じた行動モデルを検討する. 社会シミュレーション結果を参考にした人の安全に関わる防災計画などを実際に利用するには,結果と提案の効果を検証することが求められる.再現性のある自然現象などのシミュレーションと異なり,社会シミュレーションの検証方法にあたって,シミュレーション対象とする分野における人間行動に関する実データが少ない,同じ条件で実験をすることが難しいなどの課題がある. 本研究では,今後,発生が予想される災害状況や,色々な状況に対する防災計画にシミュレーション結果を反映するため,社会シミュレーション結果の検証,妥当性の評価方法を,統計的な手法とタスク依存の知見を整理した検討を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近年,IT技術の進歩に伴い,人と人の通信手段,人への伝達手段が変化してきている.その一つとして公共施設のおけるデジタル・サインネージがある.デジタル・サイネージは,従来のポスターなどと異なり,設置場所に応じて(サインネージ毎に),情報を変更して表示・伝達することができる.この特性を活して,デジタル・サインネージと防災管理部門を通信で結び,非常事態発生時に,デジタル・サインネージを介して,状況に応じた情報提供・避難指示を周りにいる人々に周知し,より安全な場所に誘導する手段が可能になる. 誘導灯による避難誘導情報の変更,大規模空間での収容人数と避難効率の変化,避難時の環境変化とその認識の時間のズレが避難行動への影響などは実社会でのデータが少ない.その社会現象のシミュレーションを実施し,シミュレーション結果の解析にあたって,過去の事例との整合性,気づきのある事,現象の説明責任の3点に着目した評価方法に基づいた解析を実施した.具体的には,社会シミュレーションの検証例として,デジタル・サインネージに代表される新しい機器・通信方法を用いた避難指示による避難行動の変化を取り上げ,その評価方法を検討した. 防火シャッターの開閉に伴う避難経路情報が変化する状況での避難行動と,名古屋駅の地下街での避難行動のデータを用い,適確な情報の提供の大切さを示すとともに,避難時間がかかる要因を示した.特に,名古屋駅の地下街からの避難では,従来の非常標示とデジタル・サインネージに関するアンケートを実施し,そのアンケート結果を元に,デジタル・サインネージの個数と避難効率について解析を行った.
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今後の研究の推進方策 |
非常事態の避難データを手がかりに,エージェントベースの社会シミュレーション結果に対する有用性,有効性を確認する手法の検討を行う.IoT(モノのインターネット)化により公共空間を始め,実社会から観測データや履歴情報は飛躍的に増加する事が予想される.そのデータに対するパターン識別器,汎用的な評価方法への結びつけ,その変化の動きを解析する方法を検討する. 具体的には,以下を中心に検討する.(1)今までのシミュレーションデータを,そのシナリオ(人数,初期位置,発生場所など)のメタデータを事前知識とし,統計解析結果などと共にしたデータベース化する.(2)避難率の時間的・空間的変化の2面から解析した結果を事後データとする.空間的変化として,タスクに依存しないTopological Data Analysisの手法と避難行動タスクに依存する混雑度などで評価する.(3)事前・事後データともに,タスク(シナリオ)に依存している項目と独立している項目に分類し,データベース化する. データの解析にあたっては,パターンの変化からその原因を推測するベイズモデルなどを元にする統計的な手法と事例ベースを元にデータ・パターン比較により過去のどのケースに類似しているかを推論する方式を中心に検討を行う.タスク依存の評価手法としては,前年度に実施したアンケートの質問項目を見直したアンケート内容を元に実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
計算機の購入額が安く抑えることができたため.
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次年度使用額の使用計画 |
購入する機器の費用に充当する.
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