研究課題/領域番号 |
16K01294
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
川口 寿裕 関西大学, 社会安全学部, 教授 (80234045)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 群集事故 / 歩行者シミュレーション / モーションセンサー / 避難 |
研究実績の概要 |
歩行者の移動軌跡を追跡するため、スマートフォン(Apple製 iPhone SE)のセンサーを利用して、加速度、角速度の計測を行うことができるアプリケーションの開発を試みた。swift言語を用いてXcode上でプログラム作成を行った。iPhoneのCore Motionを利用して、スマートフォンのセンサーから加速度、角速度を取得するプログラムを作成した。しかし、それらをデータファイルに書き出してスマートフォン内に保存し、外部PCに取り込む機能については未完成である。 また、市販のモーションセンサー(ATR-Promotion製 TSND151)を用いた加速度、角速度の計測も行い、スマートフォンのデータとの比較検証を行うための準備を整えた。理論的には加速度を積分し、角速度データから角度補正を行うことで、歩行者の移動軌跡を追跡することができるはずである。しかし、実際にはノイズによる誤差の蓄積があり、そのままでは実際の軌跡とかなり大きなズレが出ることがわかった。高周波成分の誤差はそれほど大きくないが、低周波成分の影響が大きいことがわかった。 さらに、10m四方程度の比較的狭い範囲であれば、モーションキャプチャー(ノビテック製 Vinus3D)を用いて歩行者軌跡を追跡できるシステムを整備した。これによるデータもスマートフォン・アプリケーションの精度検証に利用できる。 一方、歩行者シミュレーションについては、力学ベースの離散要素法(DEM)によるものと、ルールベースのマルチエージェント法およびセルオートマトン法によるものの計算コードを作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スマートフォン用のアプリケーションについて、加速度や角速度のデータを取得するプログラムは完成しているが、単にスマートフォンの画面に表示させるだけでは歩行者の軌跡解析に利用できない。データをファイルに書き出し、スマートフォン内に保存した上で、外部PCに取り出す機能を持たせることが重要となる。この部分がうまく動作しなかったため、当初の研究計画よりやや遅れているが、それほど大きな遅れではないと考えている。 また、市販のモーションセンサーに加えて、現有設備のモーションキャプチャーを利用することで、スマートフォン・アプリケーションの精度検証を行うことができることがわかった。これらを利用することで、よりスマートフォン・アプリケーションの信頼性を高められると期待される。 歩行者シミュレーションについては、力学ベースのモデルに加えて、ルールベースのモデルの開発を行った。力学ベースモデルは厳密であるが、計算負荷は大きい。逆にルールベースモデルは計算負荷は小さいが、特に高密度な流れに対して結果の信頼性が低い。両モデルをうまく使い分けることで、より効果的な歩行者シミュレーションを行うことができると期待される。
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今後の研究の推進方策 |
まずはスマートフォン用のアプリケーションにおいて、データの書き出しおよび読み込みの機能を追加して、目的のアプリケーションを完成させる。スマートフォンで得られたデータを市販のモーションセンサーによるデータと比較することで精度検証を行う。一番問題となるのはノイズによる誤差の蓄積である。特に低周波成分の影響が大きいことがわかったので、ハイパスフィルターを適用することで、低周波成分を除去した上で積分を行うことを検討する予定である。また、10m四方程度の狭い領域に限定すれば、モーションキャプチャーで歩行者の軌跡を直接追跡することができる。この結果と比較することで、積分精度の検証を行うことができる。必要であればより高精度な積分スキームの利用を検討する。 歩行者シミュレーションにおいて、力学ベースモデルとルールベースモデルの長所・短所を比較し、状況ごとにどちらのモデルの方が適しているのかを精査したい。状況によってどのようなシミュレーションモデルを用いるのが適当なのか、判断基準を提案できるのではないかと考えている。
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