災害時の減災,縮災を実現するためには,有効な避難計画の立案が求められており,種々の災害状況を想定した避難シミュレーションを実施できる環境が必要である.多くの人的要素(避難者や誘導者)を含む避難状況の精緻な再現には,避難者をエージェントとして表現するマルチエージェントシステム(MAS)を用いて,避難シミュレーションを行う場合が多い.本研究課題では,マルチエージェントシステムで精緻な避難シミュレーションを実現するために,シミュレーションに使用される避難モデルの構築に必要な各種パラメ ータの設定指針の策定を研究目的としている.そのために,MAS を用いた避難シミュレーションにおいて,事前に実施された避難訓練や実験などから,観測できる群集の流動に基づき避難モデルに含まれるパラメータを適切に設定する方法を開発し,モデルパラメータ設定に対する指針策定を進める研究計画となっている. 平成28年,29年度には,(1)避難環境や対象者を想定した避難訓練の実施及び測定,(2)測定した避難状況からの避難モデルパラメータの算出手順の確立,(3)指定の避難モデルパラメータによる避難シミュレーション実施手順の確立を行い,避難実験から計測された避難者の流動と避難シミュレーションによる流動を比較して避難モデルのパラメータ設定方法を検討した.平成30年度には,遺伝的アルゴリズムを援用した最適化手法で,避難モデルパラメータを推定する手法を提案しその有用性を示した.避難者別の避難モデルパラメータを算出し,避難者速度や避難者の歩行パターンなどの避難実験条件別にパラメータの分布を推定できることを示した.その成果をまとめ関連学会で研究成果の発表を行った.
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