研究課題/領域番号 |
16K01301
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研究機関 | 東京工業高等専門学校 |
研究代表者 |
志村 穣 東京工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (70390424)
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研究分担者 |
林 丈晴 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (70637264)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 緩み検出 / ボルト締結体 / 応力聴診器 / 打撃加振 / 軸力 / 動ひずみ |
研究実績の概要 |
本研究は,応力聴診器と打撃加振を併用したボルト締結体の緩み検出の可能性を検討することが目的である.そのため,初年度は簡易試験片モデル,打撃加振装置および測定系等から構成される実験装置を考案,製作し,本実験装置を用いてボルト軸力とボルト締結部周辺のひずみの時間変動との相関を調査した.その結果,ボルト締結体が緩み状態に近くづくほど,動ひずみ波形の減衰率が増加することが示唆された. 上記の昨年度の研究結果を受け,今年度は,実験装置の改良および更なる実験条件の加味とそれらが動ひずみ波形に及ぼす影響を検討した.実験装置の改良として,打撃加振装置の二度打ちを解消した.これにより再現性のある,安定した動ひずみ波形の取得が可能となり,実験データの信頼性が向上した.今回設定した実験条件は7つに分類され,①軸力,②打撃加振力,③ボルトヘッドと応力聴診器との設置距離およびボルトヘッドと打撃加振点との距離,④試験片厚さ,⑤試験片の形状種別,⑥複数ボルトとのその配置(試験片横断方向),⑦複数ボルトとその配置(試験片長手方向)の影響を検討した. 実験①,②の結果より,軸力が減少するほど,打撃加振力が大きくなるほど,減衰率が増加することがわかった.また,実験③から,ボルトヘッドと応力聴診器との設置距離が近くなるほど,ボルトヘッドと打撃加振点との距離が大きくなるほど,減衰率が線形的に増加する結果が得られた.実験④を実施したところ,試験片厚さが大きいほど,減衰率の増加が確認された.実験⑤では,試験片を重ね合わせてボルト締結した状態の方が,減衰率が総じて高くなることがわかった.実験⑥の結果より,横断方向に配列された2本のボルトのうち,どちらか1本を緩めていくと減衰率が顕著に増加することが示唆された.実験⑦の結果によると,2本のボルトの長手方向配置には減衰率増減に対して規則性がないようである.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究内容は「実験装置の改良および更なる実験条件の加味とその実施」である。昨年度の研究の問題点を踏まえ,より精度の高い実験データを得るための実験装置の改良や様々な条件下の実験を重ねることで,本研究提案手法によるボルト締結体の緩み検出の可能性を確かなものにするための知見がいくつか得られた.これらの研究成果をもとに,学会等で口頭発表することもできており,本研究の進捗度は概ね順調であると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の実施内容は構造材料の欠陥検出とボルト締結体の緩み検出の双方を含んでいるが,実質的には後者を主として研究を進めている.その方向性は今後も継続する予定である.本研究では,応力聴診器を活用することを肝として,これにハンマーによる打撃加振を組み合わせることで,ボルト締結体の緩み検出の可能性を示唆した.今年度は様々な条件下での実験結果から,本提案手法の有用性を示す有意義な知見をいくつか得るに至っている. 今後の推進方策としては,これまでの研究成果を踏まえつつ,対象としているボルト締結体試験片モデルを,より現実に即したものに変更することが挙げられる.これにより現在の実験室レベルから実用初期段階にステップアップを目指したいと考えている.また,本提案手法の発展,展開を睨み,現状の緩み検出のみならず,緩み検出モニタリング技術とシステム構築の検討を視野に入れている.そのため来年度は,ボルト締結体試験片の繰り返し荷重負荷試験を実施し,応力聴診器を用いたボルト軸力の経時変化の検出を試行する所存である.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度の研究内容は実験装置の改良および当該実験装置で検討可能な更なる実験条件の策定とその実施であった。実験装置の改良では大幅な物品購入の必要はなく,既存の構成要素の小変更で対処できる範疇であった。この改良の結果,実験データに再現性を有することがわかり,各種条件下での実験が可能になった。当該年度当初では測定系の設備更新を検討していたが,現状の動ひずみ測定器で十分対応可能なことが判明したため,一旦保留にしている。 今後は,打撃加振装置に加振力の検出機能を付与したいと考えているため,次年度使用額の一部をこれに充てたい。また,本研究課題の将来へ向けた展開として,ボルト締結体の緩み検出のモニタリングシステム構築を検討したく,応力聴診器に通信モジュールを実装することを考慮しており,この準備にも当該経費を使用したい。
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