本研究課題の実施内容は構造材料の欠陥検出とボルト締結体の緩み検出の双方であるが,実質的には後者を主として研究を進めた.本研究で肝要となる応力聴診器は本来,ひずみ測定用途であるが,これを用いてボルト締結体の緩み検出の可能性を検討することが本研究の目的である. 初年度は簡易試験片モデル,打撃加振装置および測定系等から構成される実験装置を考案,製作し,本実験装置を用いてボルト軸力とボルト締結部周辺のひずみの時間変動との相関を調査した.その結果,ボルト締結体が緩み状態に近づくほど,動ひずみ波形の減衰率が増加することが示唆された. 上記初年度(平成28年度)の研究結果を受け,2年目(平成29年度)は,実験装置の改良および更なる実験条件を加味し,動ひずみ波形に及ぼす影響を検討した.実験装置の改良により再現性のある,安定した動ひずみ波形の測定が可能となった.追加の実験条件として,①試験片厚さ,②試験片の形状種別,③複数ボルトとのその配置(試験片横断方向),④複数ボルトとその配置(試験片長手方向)の影響を調査した.その結果,実験①:試験片厚さが大きいほど減衰率が増加する,実験②:試験片を重ね合わせてボルト締結した状態の方が減衰率が総じて高くなる,実験③:横断方向に配列された2本のボルトのうち,どちらか1本を緩めていくと減衰率が顕著に増加する,実験④:2本のボルトの長手方向配置に対して減衰率増減の規則性は見られない,という知見が得られた. 最終年度(平成30年度)は,これまでに実施した緩み検出実験の再検討および将来の応力聴診器活用を見据えた新たな試みに取り組んだ.後者のその内容は応力聴診器を用いてき裂の応力拡大係数を解析する,というものである.モードⅡ(面内せん断型)のき裂変位様式を対象とし,三軸型応力聴診器と擬似き裂を有する引張せん断平板試験片を用いて,応力拡大係数解析の可能性を調査した.
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