研究課題/領域番号 |
16K01313
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中田 節也 東京大学, 地震研究所, 教授 (60128056)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | シナブン火山 / 雲仙普賢岳 / 溶岩ドーム・流噴火 / 火砕流 / ブルカノ式噴火 / 溶岩供給率 / 脱ガス効率 |
研究実績の概要 |
インドネシア北スマトラのシナブン火山では、2013年12月中旬から現在(2017年4月)まで、溶岩流出がほぼ連続的に起こっている。2015年夏からは、それまでの溶岩流出だけの噴火から、爆発的噴火(ブルカノ式噴火)を日に数回挟む活動に移行した。推定される溶岩の流出率は当初毎秒~8立方mであったものが現在では毎秒0.5立方m以下と、時間とともに指数関数的に減少してきた。爆発的噴火に加えて、溶岩流出もまだ継続しているため、溶岩崩落によって生じる火砕流がまれに発生し続けている。 1991-95年に類似の溶岩ドーム噴火を起こした雲仙普賢岳噴火では、同じように低調な溶岩流出時には明瞭な内成的成長が進み、その後溶岩尖塔が形成されて噴火が終息した。しかし、シナブン火山では噴出率が低調な状態で爆発噴火が起こり始めてすでに2年近く経過したが、まだ終息の気配は認められない。シナブン火山では、火道上部で外側から内側に向けてマグマが固結して有効半径が減少するなどして脱ガスの効率が悪くなったために、マグマの過剰圧が高まって爆発を繰り返していると推定される。 溶岩噴出率と累積噴出量及び溶岩ドームの標高とは逆比例の関係にある。これは溶岩噴出率が出口を覆う溶岩の荷重に左右されていることを示している。溶岩尖塔が最後に形成された雲仙普賢岳や他の世界の溶岩ドーム噴火では、250メートル近い厚さの溶岩が火口を塞いだ。シナブン火山ではまだ150メートル程度の溶岩しか溜まっていない。シナブンでは急斜面の山頂部で十分な溶岩蓄積が行えず、そのため溶岩荷重がマグマ溜りの過剰圧とバランスすることがまだできないため噴火が継続している可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シナブン火山の噴火の推移を把握するために2016年11月と2017年2月に調査調査を実施し、噴出物の地質観察と採取を行った。そこではブルカノ式噴火の火山灰と噴火に伴って流下した火砕流の堆積物中からパン皮状火山弾を見つけ採取した。 ブルカノ式噴火のステージに移行してからの噴出率変化を調べるために,2016年5月末の隣接した二時期の衛星画像を利用しDEM作成した。これと2015年6月末の同DSMを用いて,これら11ヶ月間の堆積量変化(噴出量)を見積もり,毎秒0.06立方mの平均出率を得た。一方ブルカノ式噴火で放出されたテフラ量はDSMの分解能(10m)以下の厚さでしか堆積しかなかった。そのため、桜島火山で特定時期の起きたブルカノ式噴火の噴煙高度と噴出量を参考にシナブンのテフラ量の見積もりを行った。すなわちシナブンの噴煙高度は桜島よりやや低いものの,桜島のブルカノ式噴火の平均噴出量を仮定し,シナブン火山の平均テフラ噴出率を,毎秒0.3立方m以下程度と見積もった。上二つの噴出率から, 2015年9月~現在までの噴出率は毎秒0.5立方m以下で推移していると結論された。 火砕流から採取された溶岩片の密度はブルカノ式噴火が始まってからより低いものが混ざるようになってきているが,化学組成はブルカノ式分か開始前から昨年までほとんど変化していない。また,定性的な分析によると,溶岩の石基の結晶度は減少してきているように観察され,噴火の推移メカニズムを考える上で重要なので、今後,石基結晶度の時間変化を定量的に決定する必要がある。 これらの研究成果を元に,これまでのシナブン火山噴火推移と雲仙普賢岳の噴火推移の比較を行っているところである。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方法について以下のように箇条書きにまとめる。 1.継続中の噴火の地形変化や堆積物様式,新たな火山灰・溶岩片採取のために,現地調査を毎年最低2回程度予定する。2.噴火が継続しているため,2017年の適当な時期のDSMを作成し2016年5月末からの堆積量変化を見積もることを予定している。特に,山頂部について,ブルカノ式噴火で堆積したテフラの量を計算するために,噴煙の少ない時期を選んで詳細なDSMを作成する必要がある。3.採取した岩石試料の化学分析を継続する。特に鉱物学的なデータについてはまだ未整理なので,最近の試料の分析と同時に,石基の結晶度の時間変化を定量的に検討する。4.溶岩ドーム・流噴火の多様性やその噴火メカニズムを理解するために,雲仙普賢岳でなく,世界の代表的な溶岩ドーム・流噴火についての噴出率,溶岩体のディメンジョン,化学組成,結晶度などの時間変化を文献調査によって拾い上げ,シナブン火山と比較検討する。5.本研究の成果を米国で行われるIAVCEIの学術総会で発表し,類似研究を実施している様々な分野の研究者と意見交換を行う。6.現在査読中の「シナブン火山の溶岩体の成長プロセス」のJVGRに投稿中の原稿を受理に持ち込むとともに,化学分析結果や鉱物学的な検討結果に基づく議論を進め論文化を進める。
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