研究課題
シナブン火山では、2013年12月中旬から2018年4月まで、溶岩流出がほぼ連続的に起こっている。2015年夏からは溶岩流出だけの噴火から爆発的噴火(ブルカノ式噴火)を日に数回起こす活動に移行した。推定される溶岩の流出率は当初毎秒>8m^3であったものが少なくとも2017年夏頃までには毎秒0.5 m^3以下と、時間とともに指数関数的に減少してきていた。2018年2月19日には,これまでで最大の爆発的噴火が発生した。一旦,山頂の溶岩ドームは噴き飛び,大きく凹地になったが,溶岩供給が引き続いて発生し小溶岩ドームが形成され,再び,ブルカノ式噴火と溶岩崩落による火砕流発生が繰り返している。溶岩の組成はほとんど変化しておらず,地下のマグマ溜りから安定にマグマが供給されているものと考えられる。1991-95年に類似の溶岩ドーム噴火を起こした雲仙普賢岳噴火では、同じように低調な溶岩流出時には明瞭な内成的成長が進み、最後に溶岩尖塔が形成されて噴火が停止した。しかし、シナブン火山では低調な状態で爆発噴火が起こり始め、2年近く経過しており、活動終息気配は認められない。シナブン火山では火道上部で外側から内側に向けてマグマが固結して有効半径が減少するなどし、何らかの原因で脱ガスの効率が悪くなったために、火道上部マグマの過剰圧が高まって爆発を繰り返していると推定される。溶岩噴出率と累積噴出量及び溶岩ドームの標高とは逆比例の関係にあり、溶岩噴出率が出口を覆う溶岩の荷重に左右されていることが暗示される。溶岩尖塔が最後に形成された雲仙普賢岳や他の世界の溶岩ドーム噴火では、250メートル近い厚さの溶岩が出口を塞いだ。シナブン火山ではその厚さはまだ150メートル程度である。シナブン火山では急斜面の山頂部で十分な溶岩蓄積が行えず、溶岩荷重がマグマ溜りの過剰圧に達しないため噴火が継続していると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
シナブン火山の噴火の推移を把握するために2017年7月と2018年1月及び3月に調査調査を実施し、地形変化と新しい噴出物調査や採取を行った。2018年19日噴火の火砕流が,2016年5月以降初めて採取できた溶岩試料である。また,ブルカノ式噴火や火砕流からの降灰した火山灰の化学分析用に採取した。ブルカノ式噴火のステージに移行してからの噴出率変化を調べるために,2017年6月末と7月末の2時期の衛星画像を利用しDSM作成した。この結果と2015年6月末のDSMとの比較し,約2年間の堆積物増分(噴出量)を約17百万立方mと見積もり,この間の平均噴出率を毎秒0.26m^3と見積もった。その際,2015年夏からの繰り返されたブルカノ式噴火で放出されたテフラ量は今回のDSMでもほとんど変化がとらえられないため,DSMの分解能(10m)以下の厚さでしか堆積していないことが示された。以上のことから,シナブン火山でブルカノ式噴火が継続している期間(2015年9月~現在)の噴出率は,依然として,毎秒0.5m^3以下で推移していると見積もられた。火砕流から採取された溶岩片の密度はブルカノ式噴火が始まってから,それまでよりより低いものが混ざるようになってきているが,化学組成は2月19日の爆発イベントを含んでほとんど変化していない。2月19日イベントのレーダー観測によると,まず最初に山頂部溶岩ドームの大崩落(火砕流イベント)が先行し,その後,15kmに達する爆発が発生したと判断される。規模の大きな崩壊による火道上部の急減圧によって,これまでで最大の爆発的な噴火が誘発されたと理解される。これらの成果を元に,これまでのシナブン火山噴火推移と雲仙普賢岳の噴火推移の比較,及び,爆発的噴火がシナブン山で起こるメカニズムのモデルの検証を行っている。
1)継続中の噴火の地形変化や堆積物様式,新たな火山灰・溶岩片採取のために,現地調査を毎年最低2回程度実施する。2)その際,継続してマグマ組成の変化や溶岩の組織変化を追跡するために,新たな火砕流堆積物や火山灰の採取を実施する。3)2017年後半以降の適当な時期のDSMを作成し,2017年6月からの地形(溶岩ドーム標高)変化,堆積量変化を見積もることを予定している。その際,山頂部について,ブルカノ式噴火で堆積したテフラの量を計算するために,噴煙の少ない時期を選んで詳細なDSMを作成する必要がある。4)採取した岩石試料の化学分析,組織解析を継続する。特に鉱物学的なデータについてはまだ未整理であるので,新しい試料の追加分析と同時に,石基の結晶度解析を検討する。5)溶岩ドーム・流噴火の多様性やその噴火メカニズムを理解するために,雲仙普賢岳でなく,世界の代表的な溶岩ドーム・流噴火についての噴出率,溶岩体のディメンジョン,標高変化,溶岩化学組成,結晶度などの変化をシナブン火山と比較する。6)昨年度JVGRに公表した論文の続編(2017年度以降の噴火推移と噴火メカニズムについて)を,主に,雲仙普賢岳噴火との比較論を通して完成させることを目指す。
本年(平成29年)度は、天候状況や噴煙の映り込みにより、人工衛星による立体視できる画像提供が少なく、予定した人工衛星画像を用いたDEM解析が1時期で制度の悪い結果しか得られなかった。そのため、多くの経費を次年度に回し、噴出量及び噴出率の時間変化について解析を進める予定である。2018年2月噴火以来、これまでとは異なる噴火推移に変化している。これは雲仙普賢岳型の溶岩ドーム噴火では認められなかったものであり、それらの違いが生じる機構を理解することが重要であり、現地で地形変化の判読と試料採取を複数回繰り返すことが重要である。今年度から繰り越す経費は来年度経費と合わせ、上の2つの目的を中心に達成することに使用する予定である。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 4件、 査読あり 4件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Journal of Volcanology and Geothermal Research
巻: 印刷中 ページ: -
10.1016/j.jvolgeores.2017.06.012
10.1016/j.volgeores.2017.03.002
Contribution to Mineralogy and Petrology
巻: 172 ページ: -
10.1007/s00410-017-133-3
Earth, Planets and Space
巻: 68 ページ: -
10.1186/s40623-016-0449-6