研究課題/領域番号 |
16K01313
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中田 節也 東京大学, 地震研究所, 名誉教授 (60128056)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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キーワード | 溶岩ドーム / 爆発的噴火 / 噴出率 / 脱ガス速度 |
研究実績の概要 |
シナブン火山は、2013年末からほぼ連続的な溶岩流出による、溶岩ドーム・溶岩流噴火を継続した。溶岩噴出率は当初8 m3/s近かったものが、時間とともに指数関数的に減少し、2018年6月の小さなブルカノ式噴火を最後に噴火活動は停止した。このような溶岩噴出率の時間変化は溶岩ドーム噴火にしばしば認められるもので、1991~1995年の雲仙普賢岳噴火や2004~2008年のセントヘレンズ火山の噴火と類似したパターンである。ただし、後者2ドーム噴火と明らかに異なる点は、シナブン火山においては噴火の後期からブルカノ式噴火を繰り返す様式に移行したことである。シナブン火山では、2018年2月19日に、2013年末以降の噴火としては最大規模(爆発指数VEIで 3以下程度)のブルカノ式噴火を起こした。この噴火を挟む2017年6月から1年間の噴出率は、約0.2 m3/sである。 ブルカノ式噴火は瞬間的な噴出率としてはプリニー式噴火に次いで大きいものであるが、噴火の中期的なタイムスケールにおいてはマグマの噴出率には影響していないことを物語っている。ブルカノ式噴火は火道上部におけるマグマの上昇速度と脱ガス速度のバランスが不十分になった時に発生するもので、中期的な溶岩噴出率を左右すると考えられるマグマ溜りの圧力変化とは無関係に起こるものと考えられる。シナブン火山と雲仙普賢岳やセントヘレンズ火山の溶岩ドームの成長を比べると、シナブン火山では溶岩ドームの厚みが崩落により進まなかったのに対して、後2者では溶岩の崩落が少なく、溶岩ドームが厚みを順調に増したことが大きな違いである。すなわち、溶岩ドームによる火道上部への荷重圧と火道上部の圧力のバランスによって、このような違いが発生したと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2018年度は、2018年2月19日に発生した噴火の実態を把握するための現地調査を実施した。また、最近の溶岩噴出率を正確に決めることが本研究において重要であるため、最近撮影された衛星可視画像を入手・測量し、前回結果との比較を行った。現地調査では、2月19日噴火によって発生した火砕流が規模の小さいもので、これまでの火砕流堆積物とは異なり、堆積物が赤褐色を呈する高温型のものであることを確認した。すなわち、噴煙崩壊型の火砕流で、これまでの溶岩ドーム崩落型火砕流とは異なる。また、衛星写真によって測量した2017年6月初めから2018年6月までの噴出物量の変化は約6百万m3であり、そのほとんどが2月19日の噴火によって堆積したものと考えられる。しかし、2016年後半から日数回と発生した多数のブルカノ式噴火の堆積物が存在するはずの山頂部西側での測量は、複雑な地形のため精度の良い結果を得るのは難しく、正確な堆積量が得ることができなかった。 現在、新たに2018年2月19日火砕流から採取された溶岩も含めて化学分析と鉱物分析を行っており、溢流的な噴火から爆発的な噴火への以降の原因を明らかにするため解析中である。また、山頂部東部分の正確な地形データを得るために、過去に遡って精度の良い衛星画像の取得が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
当初2018年度が本研究の最終年度だあったが、「シナブン火山の噴火は2018年夏にほぼ終息したが、雲仙普賢岳との噴火機構比較をより精度よく行う上で、シナブン火山の総噴出量と噴出率変化を得ることが望ましい。そのためにはシナブン火山の山頂部の鮮明な衛星写真を取得する必要があるため、調査期間を延長して必要な衛星写真の取得をする」ため、研究の達成度が十分ではないため最終年度の延長を行った。 1.現在実施している化学分析と鉱物分析の結果を取りまとめ、溢流的噴火から爆発的噴火までの、マグマの性質に変化がなかったかどうかを明らかにする。 2.最近の噴出量・噴出率に関しては、衛星画像に依存している。特に、山頂の西側での体積量が1回あたりのブルカノ式噴火の規模がどの程度であったかを知る鍵になる。そのため、これまである画像データに加え、新たな画像の発掘・取得を行い、堆積物量の推定を行う。 3.以上の結果をまとめ、公表論文としてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
シナブン火山の噴火は2018年夏にほぼ終息したが、雲仙普賢岳との噴火機構比較をより精度よく行う上で、シナブン火山の総噴出量と噴出率変化を得ることが望ましい。そのためにはシナブン火山の山頂部の鮮明な衛星写真を取得する必要があるが、夏以降は悪天候が継続し山頂部を鮮明に捉えた衛星写真が得られない。そのため、調査期間を延長して必要な衛星写真の取得をする。
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